https://www.j-cast.com/2021/04/04408533.html?p=all

中略 
まさに、今の時代を象徴するような楽曲、といえるだろう。そんな「夜に駆ける」は、サウンド的にどんな特徴を持っているのか。音楽作家のMUTEKI DEAD SNAKE氏が解説する。

■メロディの作り方に見た「新しさ」
こちらの曲を聴いて、僕が最初に引っかかったのはBメロ。1番での歌詞で言えば「触れる心無い言葉」の部分から、半音階で上がっていくメロディです。
もちろん頭から終わりまでメロディも歌詞も素晴らしいのですが、なんだかんだみんなこの部分に惹かれてこの曲を聴いているんじゃないかなと思うくらい、僕の中では衝撃が大きかったです。

なぜ衝撃だったかと言いますと、このスピードで半音階でメロディが動くと、ほとんどの人はまず正確な音程で歌うことができないと思います。なので、この「夜に駆ける」は、そもそも人が歌いやすいようにとか、覚えやすいようにとか、そういうことは考慮せずに、自分のセンスを信じて、オートチューンやメロダインといったボーカルの音程を補正するソフトを使用して、歌の音程を録音後に直す前提でメロディを作っているんだな、と思ったからです。

2010年前後からニコニコ動画で流行り出した初音ミクに代表されるボーカロイドの楽曲では、こうした人には歌えないような楽曲は多かったです。そこから十数年を経て、人が歌う曲でもそのようなことを当たり前にするクリエイターが出てきました。

しかも、今まではそのような曲を作ってもサブカルチャーとして捉えられ、マジョリティの支持を得ることはあまりなかったようなイメージがあったのですが、今ではここまでの市民権を得られるまでになったんだな、と感動すら覚えます。

「夜に駆ける」のように、音程を補正するソフトが進歩した今からこそできる、そもそも人が歌うのって結構難しいよね、というメロディが入っている曲を聴いていると、時代性を感じて非常におもしろいなと思いますし、これから先の音楽はどうなっていくのだろうと楽しみになります。

■常識では考えられない?ピアノのフレーズに注目
こちらの楽曲を聴いてサウンドの要になっているのはピアノだと思うのですが、こんなに曲の中でピアノのフレーズが動いて主張している楽曲、なかなか聴かなくないですか?特に2番のAメロでメロディが16分音符で刻みながら、裏でピアノがメロディと同じく16分音符で動いている箇所、はじめて聴いた時はかなり驚いたのですが、フレーズがとてもいいのでスッと入ってきますし、何より情報量が非常に多いので聴いていて満足度がとても高いなと感じます。

ベースやドラム、ギターなどでサウンドを安定させて、その上でピアノは遊びまくっていて、歌の邪魔になりそうなものですが意外と邪魔にもなっておらず、ボーカル・ikuraさんの声と非常に相性のいい音色だなと思いますし、これだけピアノの音を詰め込んでも成立させられるのは、作曲したコンポーザー・Ayaseさんのセンスあってのことですよね。

多分同じようなことを他の人がやると、「これYOASOBIっぽいね〜。」って言われちゃうくらい、このサウンド感とフレーズ感は唯一無二のものだなと思いますし、YOASOBIの楽曲で使われているピアノの音、Ayaseさんのインタビューで読んだのですが、音楽を作るDAWというソフトに最初から付属している音で作っているそうで、「それだけでここまでできるんだ!」と驚きました。

世の中には沢山の音楽が溢れており、その中でヒットする楽曲には人々を刺激するようないい意味での違和感みたいなものが入っていることが多いと思うのですが、この「夜を駆ける」にもそのような仕掛けが施されおり、作り手として非常に勉強になります。