アマ球界トップの捕手という触れ込みで2001年に中大の阿部慎之助がドラフト1位で巨人に入ってきた。それまで村田真一が巨人の正捕手を務めていたが、新旧の交代の時期でもあった。当時はまだスリムな体形。硬かった松井とは対照的に上体やバットさばきも柔らかかった。

 球団として23年ぶりとなる新人捕手開幕スタメンに名を連ねた。メンバー表は3枚か4枚つづり。それをマネジャーに頼んで1枚もらい、「長嶋茂雄」と書いてある監督欄の上の空白部分に監督に直筆でサインをしてもらった。これを後日、ガラスケースに入れて阿部に渡した。うまくいかなくなった時、「原点」を思い出してもらおうと考えた。

 新人の頃、「こんな方法があるぞ」と勧めた練習法がある。

「下半身主導で我慢して振ったらこれだけバットのヘッドが走るよ。『ツイスト』で振ってインパクトで止めてみな。止まらないでヘッドが先に走るから」

 体が前に突っ込まないようにするための「ドリル」である。「ツイスト」を簡単に言うと、打つ瞬間に腰を逆方向にひねることで、体を開かずにバットの芯で捉えることができる。この動きがツイストダンスに似ていることから、こう呼ばれる。体の開きを抑えることでバットを内側から最短距離で出し、ヘッドを走らせることができる。逆方向にも強い打球が打てるようになるのだ。

 習得のため、「両足を固定して打つ」「軸足を浮かせながら打つ」という2種類を繰り返した。

「こんな方法があるぞ」「こんなドリルがあるぞ」と言うと、すぐにチャレンジする柔軟性が阿部にはあった。疑問点があると「どうですか?」と聞いてくる貪欲さもあった。打撃マシンを相手に、体を開かずに三塁方向へファウルを打つという自身がアレンジした練習法を引退するまで繰り返した。

■長嶋監督に心配されても…

 私がヤクルトの選手だった頃、ヘッドコーチだった中西太さんは「打撃コーチはアイデアをいっぱい持ちなさい」と言った。手を柔らかくするためにはどういう道具、ドリルが必要か。遠心力を使うためには、どういうバットを使い、どういう練習をすればいいか。例えばウオーキングスイングや速振りしながらの連続打ちなどなど。ツイストはあくまでひとつの手段である。

 阿部も最初は半信半疑だったのではないか。長嶋監督は「疲れてるんじゃない?」と心配しても、歯を食いしばってついてきた。だんだん飛距離が出るようになり、ツイストの感覚が染み込んできたのは4年目くらい。この高等技術を会得したことで、どんどん安打を量産していった。

 阿部が新人時代、今なら「パワハラ」で即クビになりそうな“教育的指導”をしたことを次回記す。

公開:20/01/16 06:00
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