囲碁の世界タイトルを20回近く獲得し、2000年以降最強の棋士の1人とも評されるイ・セドル棋士が、2019年11月19日に韓国棋院に辞職願を提出したことを、韓国メディアの聯合ニュースが報じています。
かつてAI企業DeepMindの開発した囲碁AI「AlphaGo」と戦って敗れたイ棋士は、引退の動機の1つとして「AlphaGoなど囲碁AIの圧倒的な強さ」を挙げているとのことです。

歳から囲碁を始め、12歳で入段したイ棋士は定石に縛られない独創的なスタイルで韓国内のリーグ戦や世界選手権で数え切れないほどの勝利を重ね、「韓国棋界の魔王」と呼ばれた棋士です。
世界戦で4冠を獲得し、通算1000勝という圧倒的な成績を収めていたイ棋士は、Googleが買収した企業であるDeepMindが開発したAlphaGoと2016年3月に5番勝負で対局しましたが、4-1で敗北。
AlphaGoが世界最強の囲碁棋士であったイ棋士を下したことで「囲碁で初めて人工知能が人間を上回った」と評されました。

AlphaGoとの5番勝負では、第4戦でイ棋士が1勝を挙げています。
イ棋士はこの第4戦での勝利について「AlphaGoのバグに勝利しただけ」と評価しています。

当初は第4戦も「イ棋士に勝ち目はない」と解説席は見ていたそうですが、イ棋士が「神の1手」とも評されるほどの妙手を78手目に打ったことで形勢が逆転。
78手目がAlphaGoの想定外だったためか、79手目以降でAlphaGoは突然悪手を連発。
最終的に、AlphaGoは181手目で投了を宣言しました。

聯合ニュースは、「イ棋士の打った78手目は、AIに不満を抱いた人間に希望の光を与えた『華麗で神聖な1手』として今でも称賛されています」と述べています。
しかし、当のイ棋士は「私の78手目はAlphaGoに対して率直に打ち合う手ではありませんでした。(中国の囲碁プログラムである)Fine Artでも、同様の不具合が発生しています。Fine Artは人間に対して2石のハンデを受けても負けないほど強いAIですが、負ける時は大敗します。4戦目の勝利はバグによるものです」と述べました。

イ棋士は聯合ニュースに対して、AlphaGoに3戦連続で敗北を喫した時は相当イライラしたと語り、「私はネットニュースのコメントはほとんど読みませんが、AlphaGoに3連敗した後、どれだけひどい言葉が私に向けられているのか興味を持ちました。しかし、予想外なことに私を批判する人はほとんどいませんでした」と答えています。
また、イ棋士は「率直にいって、AlphaGoとの試合が始まる前からある種の敗北を感じていました。DeepMindの人々は最初から大きな自信をのぞかせていました」「たとえ私がナンバーワンになっても、負かすことのできない存在があるのです」と語り、AlphaGoの圧倒的な強さが引退の理由の1つであることをほのめかしています。
DeepMindのデミス・ハサビスCEOは技術系メディアThe Vergeに対して「イ棋士はAlphaGoとの対戦で『真の戦士の精神』を示しました。イ棋士は彼の世代で最高の囲碁棋士として語り継がれることでしょう」と述べています。

なお、イ棋士はプロ棋士を引退しても囲碁は続けるようで、2019年12月には別の囲碁AIと対局する予定だとのこと。
一部メディアが「韓国内でも人気の高いイ棋士は引退後に政治の道へ進む」と報じたことについては、「自分には政治は向いていない」ときっぱりと否定しました。

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https://gigazine.net/news/20191128-alpha-go-master-retire/