日本でも、映像配信がようやくビジネスとして定着しようとしている。インプレス総合研究所の調べによれば、2018年の「有料動画配信」の全世帯利用率は15.0%。もっとも多く利用している30代男性の場合、すでに4人に1人が利用している計算だという。1年で5.4%増加しており、2018年も同様の勢いで伸びていると予想されている。

 この新しい市場では、クラウドの巨人とテレビ局が戦う構図が生まれつつある。新旧事業者が入り乱れる戦いは、どのように進んでいくのだろうか。

「テレビ離れ」と「イッキ見」の定着
 映像配信の普及は、2つの消費者動向を軸に考えることができる。

 ひとつは「テレビ」の前にいる時間の変化だ。特に日本の場合、2011年の地デジへの移行とスマートフォンの普及が同時に進行した結果、子供部屋や書斎など、リビング以外の場所からテレビが消えた。結果、若年層を中心に「テレビ離れ」が進んでいるが、映像を楽しみたい、という要望が薄れているわけではない。

もうひとつの変化が「イッキ見」の定着だ。ドラマやアニメが「毎週1話ずつ楽しむもの」だったのは過去の話。録画や配信によって、ある程度まとまってから一気に見る、という人も増えている。

 映像配信の世界をリードしているのは、間違いなく「Netflix」だ。アメリカ市場は同社の一人勝ちであり、2018年6月末の段階で、全世界での有料利用者数が1億3000万人を超える。同社の伸びを支えているのは、活発な資金投資に支えられた「オリジナル作品」の優秀さだ。Netflixは2018年に80億ドル(約8900億円)以上を投資し、アメリカだけでなく、ドイツ・ブラジル・インド・日本など、多くの国でオリジナルコンテンツの制作を進めている。

Netflixとアマゾンの大きな違い
 オリジナルコンテンツに投資をしているのはNetflixだけではない。アマゾンも会員制サービス「Amazonプライム」のサービスとして映像配信をもっている。投資額こそNetflixに劣るものの、オリジナルコンテンツへの投資に余念がない。

 両社とも、特徴は「テレビとの差別化」にある。有料配信なので、視聴者は自ら望んで契約し、番組を選んだ人々だ。だから、誰もが制約なく視聴できる地上波に比べ、表現の幅が広いのが特徴である。

ただし、Netflixとアマゾンでは、オリジナルコンテンツへの投資方針に大きな違いがある。

 Netflixは、自社が出資して制作した作品を、基本的には「全世界同時」に配信する。「一見ニッチに見えるものでも、世界中のニーズを集めれば十分たくさんの人に楽しんでもらえる」との考えからだ。事実、日本やドイツで制作されたコンテンツは、9割がその国以外で視聴されている。幅広く優良なコンテンツが集まっている一方で、「日本人以外には通じづらい」作品は他社に比べ少なめだ。

 それに対してアマゾンは、一部のコンテンツは世界展開するものの、「その国に合わせた作品を調達する」意識が強い。特に日本では、吉本興業とタッグを組んで制作したバラエティ番組を多数配信し、成功している。

「テレビ局系」の取り組み
 映像配信というと、海外から参入する独立系のサービスが思い浮かぶが、日本では「テレビ局系」の影響力も無視できない。そもそも、日本でもっとも多くのコンテンツを生み出しているのは地上波キー局だ。

 日本テレビはアメリカから上陸した「Hulu」の日本事業を買収、そのまま「日本テレビオリジナルのサービス」へと変化させた。フジテレビは独自に「フジテレビオンデマンド」を立ち上げ、TBSとテレビ東京は、WOWOW・電通などと共に「Paravi」を立ち上げた。いずれも配信事業者にイニシアチブをとられないための方策でもある。

「他の映像配信は敵でない」とNetflix
 これらの戦いをどう見るか?

 実は「トップを巡る戦い」にはなりそうにない。

現状、日本で一番有利なのはアマゾンだ。月単位での単価が一番安い上に、通販に有利なサービスなどもセットになっており、映像配信以外を目的に加入している人も多い。

 テレビ局系のサービス、特にHuluの認知度は非常に高い。過去に比べ弱くなったとはいえ、「地上波」の周知力と番組制作力はあなどれない。過去・現在の人気ドラマに魅力を感じる人は多いだろう。

 一方、Netflixもコンテンツの良さは評価されている。地上波の視聴習慣が弱くなった消費者には、「テレビ的」なコンテンツの力は弱くなる。とすると、「テレビでは見られない」コンテンツを作っている、Netflixやアマゾンが支持される可能性は高い。

2019年2月16日 17時0分文春オンライン
http://news.livedoor.com/lite/article_detail/16030991/