スポーツ界の指導者による暴力やパワハラが社会問題になっている。そんな中で、サッカー日本代表や高校サッカーを取材するフリーライターの元川悦子さんは、かつてサッカー界でも体罰や暴言などのパワハラ指導が横行しがちだったが、近年は明らかに減ったと感じている。その理由を分析し、他の競技にも参考になるポイントを指摘してもらった。

◆“ブラック部活”が問題に
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日本のスポーツは、中学、高校などでの部活動が選手育成の中心。野球のほか、バスケットボール、バレーボールなどの団体スポーツの日本代表選手を見ても、部活出身者がほとんどを占める。

 外部コーチの制度などを導入し、専門的で科学的な練習を行う学校も増えているが、多くはあくまでも学校教育の一環で選手を育成しようとしている。

 現場が学校であるがゆえ、人間教育の一環という名目で、「長時間走らせて根性を鍛え直す」というようなパワハラ的な指導が、スポーツの名を借りて長年行われてきたのも事実だ。結果として“ブラック部活”という言葉も生まれた。

◆サッカー界もかつては“パワハラ体質”

 サッカー界も1980年代頃までは、ブラック部活が多かった。当時は、指導者の間に「厳しい走り込みなどフィジカル強化をすればメンタルも強くなる」「理不尽なことに慣れれば、忍耐力も強くなる」といった考えが根強く、「水を飲むな」も当たり前。選手がミスをしたら罰走というのも多かった。

 試合に負けたら学校に戻って100本ダッシュ、隣町の試合会場から走って帰らせるといった話も少なくなかった。全国制覇を経験した強豪校でも、そういう風景が日常的に見られたと聞いている。

◆Jリーグ開幕後、ユースチームが誕生
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こうした中、サッカー界では93年のJリーグ誕生後、各クラブが子どもたちの育成機関として、ジュニア(小学生)やジュニアユース(中学生)、ユース(高校生)などの下部組織を作った。トップチームに準じた練習環境が用意され、コーチ陣も常に最新情報を得ながら現場で指導した。子どもたちは「学区」などに関係なく入ることができた。

 「科学的な根拠のない長時間練習」や「根性を鍛えるためにあえて理不尽な要求をする」といった指導が少なかったことから、ブラック部活を嫌う、能力の高い子どもたちの新たな所属先にもなった。

 さらに「町(まち)クラブ」と呼ばれる地域のクラブチームも全国にでき、選手育成機関として大きなウェートを占めるようになった。2018年のワールドカップ(W杯)ロシア大会で背番号10をつけた香川真司(ドルトムント)が中学・高校時代を過ごした「FCみやぎバルセロナ」はそのカテゴリーに該当する。この25年間で子どもたちの選択肢が増えたのは紛れもない事実だ。

 歴代の日本代表選手が育った環境を見ていくと、W杯初出場の1998年のフランス大会では、日本に帰化した選手を除き、クラブチーム出身者はいなかったが、Jリーグ誕生から約10年が過ぎた2002年日韓大会、06年ドイツ大会で、G大阪ユース出身の宮本恒靖(現・G大阪監督)、稲本潤一(札幌)らが代表に選ばれた。

 続く10年南アフリカ大会では、市原ユース出身の阿部勇樹(浦和)、広島ユース出身の駒野友一(福岡)らが代表入りし、14年ブラジル大会では、名古屋ユース出身の吉田麻也(サウサンプトン)、香川らが代表入りした。今年のロシア大会でも、原口元気(ハノーバー)、酒井宏樹(マルセイユ)らJユース出身者が活躍している。

 こうして部活出身者以外が日本代表に選ばれるという、他の団体競技にはほとんど見られないスタイルが定着したのだ。

つづく

9/9(日) 7:06配信 読売新聞
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