https://www.sankei.com/life/news/180706/lif1807060037-n1.html
2018.7.6 20:20

 東日本大震災を題材にした北条裕子さんの芥川賞候補作「美しい顔」の一部表現が、石井光太さんのノンフィクション「遺体」(新潮社)などの既刊本と類似している問題で、講談社は6日発売の文芸誌「群像」8月号に告知を掲載し、参考文献として5冊を挙げ、石井さんら関係者に謝罪した。一方、新潮社も同日にコメントを発表し、今回の問題をめぐる講談社の一連の対応について、「講談社には、版元として冷静な対応を望みます」などと要望した。

 講談社は3日にコメントを発表し、「参考文献未表示の過失についておわびいたします」と謝罪。ただ、「小説という表現形態そのものを否定するかのような(新潮社の)コメントを併記して発表したことに、著者は大きな衝撃と深い悲しみを覚え、編集部は強い憤りを抱いております」として、新潮社の対応を批判していた。

 この講談社のコメントについて、新潮社は6日、「弊社に怒りの矛先を向けた内容。弊社はただただ驚くとともに困惑するばかりでした」と指摘。同作や作者の北条さんに非難の声が集まっていることは「同情申し上げるしかありません」としつつ、「そうした状況をつくり出した原因があたかも弊社(新潮社)にあるかのような講談社の声明は、本末転倒としか言いようがありません。そもそもの原因は、参考文献を掲載せず、類似箇所を生じさせた講談社側にあるのではないでしょうか」と主張した。

 そのうえで、新潮社は「参考文献として作品巻末などに記したとしても、それを参考にした結果の表現は、元のノンフィクション作品に類似した類(たぐい)のものではなく、それぞれの作家の独自の表現でなされるのがあるべき姿ではないでしょうか。それぞれの作品を必死に紡いだ著者の努力に思いをはせていただき、敬意をもって接して頂ければ幸いです」などとコメントした。

 講談社は7月4日から、「著者の尊厳を守り、(同作の)評価を広く読者と社会に問うため」として、「美しい顔」の全文を同社公式サイトで無料公開している。また、6日には、「群像」掲載前に北条さんから文献を提示されていたが、北条さんが出産を控えていたことから詳細を詰められないまま校了してしまったと説明。参考文献のうち3冊の著者や編者、版元への連絡が、問題が報道された後になるなど、対応が遅れたことも明かした。

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