AKB48選抜総選挙、沖縄開催の“本当”の理由

 「ものすごい数の人が押し寄せるんでしょ? 稼ぎ時かもしれないけど、その日は道路が大変な状況になりそうだから自主休業かな、ははは」

 沖縄・那覇空港から記者が乗り込んだタクシーの運転手はこう苦笑する。今週6月17日に豊見城市の「豊崎美らSUNビーチ」で初開催するAKB48グルー
プの年次ビッグイベント「第9回 AKB48選抜総選挙」(正式名称:AKB48 49thシングル 選抜総選挙)について聞いたときの返答である。

 「単なるアイドルのイベントだろう。自分には無関係だ」――もし聡明なビジネスパーソンであるならば、そう安易に考えずに見方を変えたほうが良
いかもしれない。今やこのイベントはAKB48グループのファンやアイドル好きなど、特定の人たちが盛り上がるだけのものではなく、イベントの規模拡
大につれて、より多くのヒト、モノ、カネが動くようになった。地方の企業や自治体もイベント誘致に積極的に乗り出すなど、地域経済の活性化にも一
役買っているのである。それを示すデータが以下だ。

 関西大学の宮本勝浩名誉教授の試算によると、2015年に福岡市の「ヤフオクドーム」で開かれた選抜総選挙の地元経済効果は17億8000万円、16年の新
潟市(会場は「HARD OFF ECOスタジアム新潟」)は約24億130万円に上った。2万人以上の動員を見込む今回の沖縄にも大きな経済効果をもたらすはずだ
と、自治体や企業など地元関係者は期待を寄せる。

 既に効果は表れていて、3月20日に開催地が沖縄に決まった直後から、那覇市内を中心にホテルが次々と予約で満室状態に。ある旅行予約サイトで検
索したところ、イベント当日の6月17日から1泊できる那覇市内の施設は、1000〜2000円のゲストハウスか、1万円を超えるビジネスホテル、さらに数万
円の高級ホテルなど数カ所だけだった(6月12日時点)。地元に聞くと民泊を提供する人も出てきているそうだ。

 イベント前日および当日の飛行機(羽田〜那覇)も時間帯によってはほぼ埋まっている。梅雨の沖縄にとって、例年この時期は観光オフシーズンに当
たるが、今年は選抜総選挙によってどこ吹く風といった様子だ。

 今週末のイベント本番に向けて、関係者や参加者はますますヒートアップしているところだが、実はこの沖縄開催は“異例”であり、これまでには見
られなかったさまざまな動き、思惑などがあった。なぜAKB48選抜総選挙は沖縄で開かれるのか? 関係各所への取材からその舞台裏に迫った。

●福岡、新潟、そして沖縄――2年前から地方で開催

 本題に入る前に、ご存じない読者のためにAKB48選抜総選挙について簡単に触れておきたい。

 これはシングル曲を歌う選抜メンバーをファン投票で決めるイベントで、09年に始まった。その経緯について、AKB48やSKE48などのマネジメント会社
であるAKSで、AKB48劇場支配人を務める細井孝宏氏は「ファンの声から生まれたもの」だと語る。

 「メンバーが次々と増えていく中で、当時は1つの曲に16人のメンバーが選ばれるようになりました。年間4〜5枚のシングルを出す際に、プロデュー
サーの秋元康さんを中心に、運営側でセンターを含むポジションを決めていました」(細井氏)

 すると次第にファンから「運営は全然分かってない」といった悲鳴や憤りの声などが出てくるようになったという。彼らの心理としては、自分が応援
するメンバー、いわゆる「推しメン」が選ばれていないことへの不満などがあったのである。

 そうしたクレームとも言える声が積もり積もったので、「それならばファンの皆さんに選抜メンバーを決めてもらおう」となり、選抜総選挙というイ
ベントが生まれたのである。AKB48は毎年8月にシングルをリリースするので、それに併せて6月に開票イベントを行っているというわけだ。

 第1回の「赤坂BLITZ」を皮切りに、14年までは東京および横浜といった首都圏で開かれていたのだが、そうした中で浮上したのが、20年の東京オリン
ピックに端を発するイベント会場問題である。オリンピックで利用できる施設にするため、多くのイベント会場が建て替え、閉鎖となっており、選抜総
選挙の首都圏開催が難しくなったのだ。

 どうやってイベントを存続するか。運営側で議論した結果、AKB48グループは東京以外にも、名古屋(SKE48)や大阪(NMB48)など全国各地に進出し
ているので、選抜総選挙のイベントも地方都市で開催しても良いのではないかとなった。そうして15年には福岡(HKT48)、16年には新潟(NGT48)に場
所を移したのである。

続く
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170614-00000025-zdn_mkt-bus_all