ARKの小説を投下します
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ARKが好きすぎて書いた小説を投下していきます。
反応がなかったら途中でやめます。
良かったら暇つぶしにどうぞ。 闇。
どこまでも続く黒い闇。
光はどこにもなかった。
そこを、少女は歩いていた。
ふらつきながら、熱に浮かされたような虚ろな瞳で進む。
そこには何もなく、彼女自身は何かを掴もうとするでもなく。
そして、どこへ行こうというわけでもなく。
ただ、歩いていた。 何も思い出せなかった。
いや、元から何もなかったのかもしれない。
自分が誰であり、そして何だったのか。
少女はそれを知らなかった。
闇の先。
遥か、ずっと、ずっと先に点のような一つの光が見えた。
少女は、とりあえずそこに向かって歩くことにした。
裸足の足で進む。
光は徐々に強くなっていき。
そして、彼女はそこへ向けて手を伸ばした。 目を開く。
何だか、ずっと悪い夢を見ていたかのようだ。
頭の奥に何かがつっかえていて、目の奥が重い。
「うーん……」
小さく呻いて、少女は伸びをした。
そして深く息を吐く。
何だか左腕がとても痒い。
無意識に手を伸ばし、手首を掻く。 カチン、という無機質な音がして、彼女は不思議そうに手首に目をやった。
そこにはひし形の石のようなものが嵌まっていた。
薄い青色をしているそれは、陽の光を浴びてキラキラと光っている。
「何……これ……」 ポカンとして、自分の腕に埋め込まれているそれを見る。
特に重さも痛みも感じない。
しかし、体と一体化している。
先程の音は、爪と手首の石が当たった音のようだ。
見たところ、14、5歳程の少女だった。
赤茶けた長い髪。
小綺麗に整った顔立ち。
少し痩せた体。
そして、粗末な布の服を着ている。 もう一度腕の石に触れて、そこに感覚はないことを確認してから……。
少女は、周りを見て言葉を失った。
声も出せないくらいに縮み上がり、目を見開く。
彼女は、険しい崖の切り立った岩。
その中程にある、藁と木で編まれた巨大な鳥の巣のような所にいた。 「…………」
ゴクリと唾を飲み込み、尻もちをついたまま後ずさる。
暑く、乾いた風が吹いていた。
太陽は中点に差し掛かるところで、日差しが眼下の……遥か下、数十メートルもあるであろう、一面に広がる森を照らし出している。 「え……えええ……?」
わななきながら、完全に抜けた腰を引きずって後ろを向く。
そこには、また巨大な崖がそびえ立つばかりだった。
何度も瞬きをしてみるが、変わらず同じ光景だ。 その事実から導き出される結論はひとつ。
自分は今、崖の真ん中にいる。
それも、今まで体験したことのない程の巨大な自然のど真ん中に。
「どこ……ここ……」
震える声を出して、彼女はゆっくりと周りを見た。
何かの巣と思われる場所の中にいたのは、彼女だけではなかった。
大人の男性が一抱えしてやっと持てる程の、大きな卵が一個、中心部にある。 卵は熱を持っていて、そのまわりはゆらゆらと熱気を発していた。
こんなにも大きな卵は見たことがない。
唖然としながらそれを見つめる。
硬直すること数分。
彼女はそこでやっと我に返った。
帰らなきゃ。
そう思って、よろめく足で何とか立ち上がろうとする。
しかし風に飛ばされそうになり、慌ててしゃがみ込む。
この数十メートルもあろうかという崖から落ちたら、間違いなく死んでしまう。 助けを呼ばなきゃ。
そう思う。
だが、そこで彼女はハッとした。
助けを呼ぶって、誰に?
心の中で自分が自分に問う。
その前に。
私の、名前は何だっけ。
思い出せない。 「あれ……?」
小さく呟いて頭を押さえる。
脳の奥がズキリと傷んだような気がして、吐き気を抑えて息を止める。
私は誰だろう……?
単純なことなのに。
何も、頭に湧いてこない。 私は誰で、今までどんな所にいて。
そして、どんな生活をしていて。
家族は誰で。
友達は誰で。
どこで生まれたのか。
お父さん、お母さんは……。
何も、思い出せなかった。
風が吹く。
切り立った崖は岩に囲まれている。
呆然としたまま周りを見る。
どうやらここは、岩山の中腹らしい。
少し窪んだ、光を凌げる場所だ。 しかし自力で下には降りられそうにもない高さだった。
太陽光の直撃は受けないまでも、卵の発する熱もあり、とても暑かった。
視界がグラグラと揺れる。
汗を垂らしながら、少女はその場にへたり込んでいた。
目の前が歪む。
その耳に、空気を裂く音。
何か巨大な物体が、空気を切り裂いてこちらへ近づいてくる音が聞こえた気がした。 ◇
ピチャン……。
小さな水音と共に、少女は目を開けた。
涼しい。
そして、冷たい。
顔が水で濡れていた。
「…………」
息をついて、不思議そうに顔を上げる。 すっかり夜になっていた。
やはり先程のことは夢ではなかったらしい。
切り立った崖の巣にいる。
しかし、そんなことより少女の目を奪ったのは。
巣の端の方に着地している、大きな影。
少女一人分はある、トカゲのような頭。
そこには沢山の水晶が生えており、真っ白に輝いている。 白銀に光る飛膜。
逞しい腕。
そして尻尾。
四足の翼竜が、静かに少女を見ていたことだった。
その真っ青な瞳は穏やかに、しかし力強く真っ直ぐに少女を見つめていた。
荘厳すぎるそれに、少女はただただ圧倒されて言葉を失っていた。 恐怖ではない。
怯えでもない。
感動。
そう、感動だった。
心を、魂までもを揺さぶる感情。
本当なら恐怖して泣き喚いてもおかしくないのに。
少女は胸を強く打たれていた。 月が輝く。
真っ赤な鱗を月光に光らせて、翼竜は僅かに身じろぎをした。
喉を小さく鳴らしている。
そこでやっと、少女は自分の隣にお腹をまんまるに膨らませた大きな虫がいることに気がついた。
その口からポタポタと水が垂れている。 そこから水を飲んでいたらしい。
羽が動いていて、涼しい風がこちらへ来ていた。
虫から目を離し、少女はもう一度、静かな翼竜を見た。
数分の時間が経った。
水晶を生やした翼竜。
赤い鱗と、白い水晶のそれは、やがて喉を鳴らした。 「……何故泣く?」
穏やかな、壮年男性の声だった。
少なくとも少女にはそう聞こえた。
翼竜は、少女に問いかけ、覆いかぶさるように顔を近づけてきた。
巨大な顔面。
何よりも、透き通った宝石のような、真っ青な瞳。 少女は、自分の目に手をやって、そこから生温い涙が溢れているのを知った。
そして嗚咽を漏らしながら顔を覆う。
「あなたが……」
かすれた、小さい声で言う。
「あなたが……あまりにも綺麗で……!」 翼竜は、それを聞いて少しの間沈黙した。
そして体を揺らして小さく笑い出す。
「クク……ハハハ!」
面白そうに首を揺らしながら、彼は言った。
「奇妙なことを言う。焼き殺そうかと最初は思ったが、もうじき産まれる一族の子の前で無益な殺生はしたくなくてな。水バグ(※ジャグ・バグ)を連れて、お前に水を与えた訳だ」 「水バグ……?」
少女は隣でキチキチ……と鳴いている青い虫を見た。
「私を、助けてくれたの?」
「結果的にはそうなるな。しかし、奇妙な生き物だ。それに、そんな情熱的な口説きをされたのは、実に長いこと遥か昔のことだ。妻を思い出すわ」 「あなたは……?」
「儂(わし)は、この地域を治めるワイバーン。エンバークリスタルワイバーンの長(おさ)だ。周りはワシのことをヘアーと呼ぶ」
「ヘアーさん、ですか。ありがとうございます。助けてくれて……」
ぎこちなく笑った少女を見下ろし、ヘアーは近づいてきた。
そして不思議そうに彼女に問いかける。 「しかし、ここにどうやって登ってきた? 見たところ翼も飛膜もないではないか。それにやはり、ギガントピテクスではないようだ……華奢すぎる」
「私は……私は、人間です」
「ニンゲン? 何だ、ニンゲンとは?」
問いかけられて、少女は口をつぐんだ。
何だろう……。
思い出せない。
いや、思い出してはいけないような気がしたのだ。 下を向いてしまった彼女に、ヘアーは続けた。
「……まぁ良い。お前に悪意がないことは分かる。我らワイバーン一族は、生き物の悪意や邪気に敏感でな」
「ごめんなさい……」
「いろいろ疑問はあるが、夜も遅い。お前の巣へ案内するが良い。送ってやろう」
そう言われ、少女はまた俯いた。 「どうした?」
「私……その……覚えてないんです」
「覚えていない?」
「はい。目が覚めたらここにいて……前のことも何も全然分からなくて……」
少女の目に涙が盛り上がる。
彼女は、輝く翼竜を見上げて声を絞り出した。
「ヘアーさん、私どうしよう……?」
森を抜けた風が、木々を凪ぐ。
空には依然、漫然と輝く白い月が浮かんでいた。 ★
眠気が来たので寝ます。
明日まだ残ってたら、続きを投下します。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています