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おととい昨日の京子さん
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0001名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 06:36:11.90ID:WF5bB/yS0
屋上は、懐かしい匂いがした。
夏を間近にした梅雨の風が、濡れた草の香りを運んでくる。
びしょ濡れだった制服も長い髪も、すっかり乾いている。身体にぴたりと張り付いた制服は、剥がそうとすると、ちょっぴり痛い。
それはちょうど動物の毛皮のように、自分の身体の一部になったように思えた。

もう、終わりにしよう。
うまくいかない人生を、誰かのせいにすることを。
本当は、誰も悪くないのだ。
長い年月の中で、どんなに辛く、悲しいことがあったとしても、誰も悪くない。
全てはバッドデイ。運が悪かっただけなのだ。
もしも運命を決めている神様がいたとしても、誰も悪くない。神様だってきっと、そうしなくちゃいけない理由があるんだ。
私はそう考えた。
いちいち誰が悪いとか、どうすればよかっただとか、考えるだけ無駄なんだ。
そう。無駄。
だから私は、考えることを止めることにした。
昨日の事も、今日の事も、明日の事も。
0002名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 06:37:26.80ID:WF5bB/yS0
フェンスに足をかけて、外側の塀に着地する。
文字通り、生と死の境を超えると、視界が大きく広がった。
右も左も、上も下も、広大な景色が映っている。
ああ、こんな景色だったんだ。
目前の森も、目下の畑も、頭上の空も、なんだかすごく新鮮に感じる。
私の目に映る世界は、至極透明な薄い膜に覆われていたのだと思わされた。

綺麗。

私は一息吸って、少し止めて、それからゆっくりと息を吐いた。
そのまま、ゆっくり、ゆっくりと身体を外へ傾ける。
ほんの数秒が、とても長く感じられた。
暫く経つと、がくん、身体が急に傾いて、ローファーを履いた私の足が顔の横をかすめていく。
私の視界には、細い足と曇った空。
頭が真下へ、落ちる。
落ちてゆく。
ほんの数秒の間に私が思った事は一つ。
ただ、さよならと。
0003名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 06:38:42.18ID:WF5bB/yS0
ごん、という音で目が覚めた。
ここは……ベッドの上だ。かかとがベッドからずり落ちて、フローリングに着地している。暮春には少し暑い掛け布団が、私の足をベッドから追い出したみたいだ。
身体を起き上がらせて、深呼吸をする。

夢じゃない。

あれは、夢じゃない。私は、学校の屋上から飛び降りた。
まっすぐ、頭から、綺麗に。
それはもう、流星になったくらいにすがすがしい気分だった。星に辿り着く前に大気圏で燃え尽きてしまう隕石よりは、よっぽど良い身分だと思った。
けれど、私は生きている。こうして生を実感している。
今があの日から過去なのか、未来なのかも分からない。
ただ分かるのは、ここは病院ではなく、私の家の、私の部屋の、私の布団の上だということ。
0004名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 06:39:23.06ID:WF5bB/yS0
私はとりあえず、日付と時間を確認するために携帯を探した。
真っ先に手を伸ばした場所は、枕の隣。
私は寝る前に携帯を弄る癖があるので、置いておく場所はいつもここだ。
ぱんぱん、と軽くベッドを叩きながら、携帯を探す。しかし見つからない。
部屋の電気を点けて、ベッドから布団を剥ぐ。それでも見つからない。
思い切り剥いだ布団から、綿が漏れ出た。元々は小さな虫食いだったであろう穴から縦に亀裂が入っており、それは確認するまでもなく重症だ。
ベッドの上に落ちた綿を掬い取って、私は思う。
なるほど、今日か。
私が屋上から飛び降りた日。その日は、前日から携帯が無くて、布団からは綿が漏れていて、嫌な一日が始まるな、と感じていた。
ならば、私は一日前に戻ったということか。
不思議に思いつつも、その事実にあまり動じなかったのは、屋上から身を投げた感覚が鮮明に残っていたからだろう。
私はもう死人。何が起こっても不思議じゃないし、何があっても深く考えない。
私は、綿が漏れ出る布団を被り、朝までもうひと眠りすることにした。
0005名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 06:40:35.84ID:WF5bB/yS0
私が死んでから二度目の目覚めは、午前七時のことだった。
いつもと同じ時間に鳴る目覚ましのタイマーを切って、制服に着替える。
脱ぎ捨てられたブラウスはしわくちゃになっている。けれど、身だしなみはこの際、気にしなくていい。どうせ私は、雨でびしょ濡れになる。

私には、親がいない。いや、親はいるのだが、家にはいない。
先月、両親は離婚し、父はどこか遠い場所に。母は実家に帰省したきり戻ってこない。
両親共に居ないというのは、正直、楽でいい。親の目を気にすることも、帰りの時間を気にすることもない。朝は食欲がない私に、無理やりご飯を食べさせる人もいない。
なんと良い身分だろうか。アパートのような小さな家ではなく、一軒家が我が物だ。
もちろん、稼ぎのない私だけじゃ、光熱費すら支払えないのだが。
とにかく、それも考えなくていい。私はもう死んだのだ。また今日、死ぬだけなのだ。
七時十分を過ぎたことを確認し、私は家を出た。
0006名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 06:41:44.50ID:WF5bB/yS0
登校してすぐに、私は園崎さんの机を調べた。
園崎さんは何故か私の事を嫌っていて、毎日のように嫌がらせをしてくるのだ。
理由は、まあ、なんとなく分かる。私だってきっと、私のような人間が周りにいれば虐めたくなってしまうだろう。
単純に嫌いなだけだとか、ムカつくだとか、そんな理由じゃないと思う。きっと、そうしなくては自分を保てないのだ。
とても悲しい事だと思う。
机から携帯を引っ張り出し、中身を確認する。
案の定、ロックは解除されておらず、中身にまったく問題はない。しかし画面にはひびが入っていて、角が少しへこんでいる。電波の無いこんなガラクタ、どうされたって別にいい。
本当なら、お昼に屋上でこれを見つける。けれど二回目の今日だ、面倒くさいことはなるべく省こう。
時間を確認すると、七時四十分。そろそろ皆が登校してくる時間だ。
私は自分の机に座り、突っ伏して、寝たふりを始めた。
0007名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 06:43:16.02ID:WF5bB/yS0
父と母が離婚した日のことを思い出す。

父は元々――私が知る限りだが――人をいたぶるのが好きな人で、母は毎日、父に怯えていた。

鮮明に覚えているのは、私が七歳の頃。

父が仕事から帰ってくると、真っ先に私を見てこういった。

今夜は一緒に寝よう、と。

前もって暗い話だと言わなければ、ただの微笑ましい親子の会話だろう。しかしこれは違う。

その日から私は毎晩のように、父から虐待を受けた。

母は、初めは私を味方してくれて、何度も父を止めたり、警察に通報すると脅したこともあった。

けれど、力にはかなわない。非力な人間は、圧倒的な力の差を感じると、身体が勝手に竦んで何もできなくなってしまうのだ。

そうしているうちに、私も母も、悟った。これが私たちの人生なのだ、生きるための道なのだと。

それから母は何も言わず、少しずつやつれていった。時には私を殴り、時には私は慰めた。ただめそめそと、私の前で泣いたこともあった。

そんな母を見て、私は思った。

この世界はなんて、残酷なのだろう。
0008名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 06:45:10.58ID:WF5bB/yS0
人類は、食物連鎖の頂点に立ってなお、弱肉強食を終わらせない。同族であっても、弱いものは糧となり、強いものだけが肥えていく。

自分の身を守るには、強くなるしかないのだ。

その日から私は母を捨てた。自分の身を守るために、父をそそのかして、矛先を母に向けたこともあった。

そうして何年も過ぎ、ようやく先月、父と母が離婚した。

親権は母が得たものの、彼女は私を育てる気はなく、ただ家だけを残して消えた。

父は、昔より小さくなった背中を丸めて、私に三千円を手渡して消えた。

それから私は、本当に意味で理解した。

やっと手に入れた自由。けれど、私一人じゃ長くは生きられないということ。

対人関係が怖くて、働くこともできず、頼る人もおらず、何より、行動するだけの気力がない。

こうすればいいとか、こうしなきゃいけないとか、そういう助言はいらない。

もう、何もしたくないのだから。

ようやく終わった、自由のない十六年。そしてやっと始まった、自由な一月。

私は何もできなかった。
0009名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 06:46:20.16ID:WF5bB/yS0
退屈な授業を受けながら、思う。
今までの私は、ずっとこんな感じだった気がする。
生き方を強制されるというのは、四六時中、ずっと授業を受け続けているようなものだ。
身体は拘束されていないのに、身動きが取れない状況。
結局、自分の身が可愛くて、動くことができないのだ。
世間体や、罰や、未来が怖くて、束縛という縛りから抜け出せないのだ。
でも、今の私は?
考えるまでもなく、私は堂々と席を立つ。
先生はこちらを凝視して、何人かの生徒もつられてこちらを見た。
鞄を持って、教室のドアまで歩き、一度、後ろを振り向く。
いくつかの視線とぶつかる。門田先生、久保田君、長谷川さん、園崎さん。
私はひらりと手を振って、教室を出た。
ああ。なんて、気持ちがいいんだろう。
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2018/04/20(金) 06:47:48.86ID:WF5bB/yS0
屋上の扉は既に開いていた。
普段は入ることを許されていない場所だが、今日は給水タンクの整備の為、鍵が開いている。
それでも一般生徒は立ち入り禁止だが、見つからなければ問題ない。
いや、見つかっても問題ない。
一度大きく息を吸って、吐いた。左右を見渡し、人がいないことを確認してから、フェンスに寄りかかって座った。
驚くほどに静かだ。
今は皆、座学中なのだろう。周りに人の気配なんてこれっぽっちも感じなく、まるで今、世界には私しかいないのではないかと思う。
仰向けに転がって、空を見る。
ああ、やっぱり私は昨日、死んだのだ。
私の目に映る空は、それは綺麗な曇り空。私を守るわけでも、傷つけるわけでもない曇り空。私を守る薄い膜は、もう何もない。正真正銘のイノセントワールド。
やっぱり気持ちがいい。
少し眠ることにしよう。
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2018/04/20(金) 06:49:43.71ID:WF5bB/yS0
ぽつぽつと雨が降ってきた。
まだ眠りを妨げるほどじゃないが、私の身体は雨を感じてひとりでに起きた。
携帯を濡らさないように腕でかばいながら時間を確認すると、十一時を回ったところだった。予定通りに今日が進んでいる。
この後の私は、このまま、屋上で夕方になるのを待つ。長い時間、沢山の雨に打たれながら、今までの事を何度も振り返り、この世への未練を断ち切る。
だがしかし、その作業はもう既に終わらせてある。なんなら、そのあとも。
どうしようか、と私は考えた。
今すぐ飛び降りてもいいのだが、それではなんだか味気ない感じがした。もったいない気がしたのだ。
0012名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 06:50:44.65ID:WF5bB/yS0
今の私は、たぶん、誰も経験したことがないような、特別な状況にいる。
一度死を体験した私には、世界が一変して見えている。
学校の先生なんてひとつも怖くない、法律だって、いじめっ子だって、死ぬことだって怖くない。
仰向けのまま何をするか考えていると、私の目の前に驚くべきことが起きた。
屋上に、紙飛行機が飛んできたのだ。
昨日、紙飛行機なんて飛んでいただろうか。
不思議なその紙飛行機は、ひらりと私の足元に落ちた。
それを見て、私はじわじわと身体が熱くなるのを感じた。

ゆっくりと落ちていくだけのそれが、こんな高い場所を飛んでいた。
雨にも風にも負けず、ここまでたどりついた小さな紙飛行機。
その現象を、その不思議を、私はとても美しいと思ったのだ。
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2018/04/20(金) 06:51:40.75ID:WF5bB/yS0
紙飛行機を開いてみると、先端の部分に重りが詰められていた。
黒いビニールテープを小さく丸めた重りだ。紙も慣れ親しんだものではなく、表面がとても滑らかで、少し硬い。
折り目の部分にはペンで線が引いてあり、綿密な計算をして作られたものであると推測できた。
そういえば、この学校には飛行機研究部なるものがあった。人が少なく、来年からは廃部になると言われている部だ。
私はそこに向かうことにした。
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2018/04/20(金) 06:52:26.98ID:WF5bB/yS0
部室は旧校舎の一階にあった。
普段使うことのない旧校舎は、夜間通学の生徒に向けて解放されている。
立ち入ったことのない場所、立ち入ってはいけない場所に入る高揚感は、一瞬だけ私が死んだ人間だということを忘れさせるほどだった。少し古い匂いや廊下の電灯、教室の作りから何まで、私たちが普段使う校舎とはまるで違う。
何度も周りに人がいないことを確認しながら足を進めていくと、お目当ての部室はあった。
室名札には何も書かれておらず、その代わり扉に大きく紙が貼ってある。
『飛行機研究部』
紙も文字もまだ新しい。
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2018/04/20(金) 06:54:45.44ID:WF5bB/yS0
トントン、と二回ノックをする。瞬きを二回ほどすると、中から男の人が出てきた。
「……えーと、誰?」
目は線のように細く、身体は思ったより大きい。
研究部というものは、もっとこう、細身な理科系男子の集まりだと思っていたのだが。
「この紙飛行機、この部の物ですか?」
私は名乗ることはせず、ただ目的を果たそうと思った。
名乗る必要はない。私はもう既にここにはいない存在なのだ。
「あ、それ、僕が飛ばしたヤツだ。後で取りに行こうと思ったんだけど、届けてくれたのかい?」
「はい。正確には違いますが、持ち主は探していました。気になることがあって」
「そうかそうか、助かるよ。じゃあ、とりあえず入ってくれ」
どうやら当たりだったようだ。
0016名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 06:56:02.14ID:WF5bB/yS0
「そう、ちゃんと屋上まで飛んでくれたか。よくやったぞ、三号」
私が開いた紙にいくつも丸を付けているこの人は、どうやら部長らしい。それも、たった一人の部員。
部長ひとりでどうやって部として認められているのか気になったが、そこは聞かなかった。
知りたいことは他にある。
「ひとつ、気になるんです。この紙飛行機が、どうやって屋上まで飛んだのか」
常識的な範囲で考えると、紙飛行機が屋上に飛んでくるのはおかしい。
この付近に校舎の屋上より高い建物なんてないからだ。
質素な部室の隅に三号を置いて、部長が新しい紙を持ってくる。
「良い質問だ、この部を続けてきた甲斐があったよ。僕のようなマニアは質問されるのが大好きでね」
三号と同じ材質であろう紙を私の目の前に置き、部長はまた部屋の隅から何かを取り出した。
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2018/04/20(金) 06:57:23.23ID:WF5bB/yS0
「紙飛行機がどうやって飛ぶか、知ってるかい?」
「いえ、簡単にしか。滑空しているものと認識しています」
「そこまで知っていれば十分さ。それすらも分からない人が、今じゃ沢山いるからね」
部長はビニールテープで割りばしを三本括りつけたものを持ってきた。
「君の言うことは合ってる。紙飛行機は飛んでいるんじゃなく、ゆっくりと落ちているものだ。
 正確には、揚力、推力、抵抗の三つの理由から成るんだが、まあそこはいいだろう。
 君が知りたいのは、三号がどうやって屋上まで飛んだのか。それに尽きる。そうだろう?」
とても要領の良い人だなと思った。語ることを主にせず、質問に答えることに重きを置いてくれている。
「その紙飛行機、普通じゃないと思っただろう? その通り、普通じゃない。素材となっている紙は、ケント紙と呼ばれるものだ」部長が紙を指さした。
「ケント紙?」
改めて触れてみると、曲げる力に対する抵抗が強い。一度折り方を間違えてしまえば、やり直しはきかないだろう。
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2018/04/20(金) 06:58:30.65ID:WF5bB/yS0
「そう。ケント紙っていうのは、元々製図用の紙なんだ。表面のおうとつがなく、弾力が強い。少量の水も弾く。これらの要素は、さっきも言った三つの理由に大きく関わるんだ」
説明されれば簡単なことだった。表面が平らなら空気抵抗も少なく、水も弾くなら雨の日でも大丈夫だろう。
「そして、先端には重りを付ける。紙飛行機はただ軽いだけじゃ風に流されてしまう。まあ、それはそれで楽しいし、普通の紙飛行機は大体そうだね。
 けど、僕が目指している紙飛行機はもっと精度の高いものだ。その為、風に流されないよう、ある程度自分で推力を持つ必要があるんだ。簡単に言えば、前に進む力がね」
部長は話しながら、割りばしを手に取る。
「最後に、これだ。紙飛行機を飛ばす時は、誰かが手で投げるだろう。これもまた推力に当たる。しかしそれでは安定しない。投げ飛ばそうとして、離すタイミングを間違って地面に落ちるなんてよくある話だ」
軽いジェスチャーを交えて、部長は話す。楽しそうに話す彼は、少し羨ましく思えた。
私にはこんなに夢中になれるものが無かったから。
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2018/04/20(金) 07:00:41.00ID:WF5bB/yS0
「そこで、だ。この発射装置を使う」
部長が手に持った割りばしをこちらに差し出す。
受け取ってよく見ると、なるほど、頑丈にできている。
ビニールテープが割りばしのほぼ全面を覆っており、ちょっとやそっとじゃ折れない作りだ。先端には太い輪ゴムが取り付けられていて、そこにもテープが巻かれている。
「簡単だ、ゴムで飛ばすのさ。飛行機をこれに引っ掛けて、上に向かって思い切り飛ばす。するとどうだ、機体は空中でバランスを取り、後は重りで作った推力と風の力で進んでいく」団長は手の平で飛んでいく飛行機を真似る。
私のイメージとしては、パチンコに近いと思った。玉の代わりに紙飛行機を打ち出すスリングショット。
「なるほど。思ったより原始的というか……聞いてみると単純なことだったんですね」私が言うと、部長は大笑いした。
「そりゃそうだ、紙飛行機は紙飛行機だからね。でも、ちゃんと屋上に着地するように翼の角度や重さまで計算してるんだぞ?」
さらっと言った部長の言葉は、しっかり考えてみるととんでもないことだった。風向きや飛ばす角度まで計算し、何度も試行回数を重ねた結果が三号だということだ。
いくら研究部の部長とはいえ、二日三日の工程では済まないだろう。
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2018/04/20(金) 07:01:42.92ID:WF5bB/yS0
「失礼しました。確かにすごいことです。実際、私はこの飛行機が飛んでいる所を見て、美しいと思いました」
私がそういうと、部長は細い目と口を開けたまま少し止まった。
少しして、部長は私の手を握った。
「君は」
部長が声を出すよりも少し早く、私は反射的に手を振りほどいた。
失礼だとか、気まずいなんて微塵も考えず、思い切り振ってほどいた。
まだ私の中にはいた。トラウマや恐怖なんて通り越した、呪いのような感覚が。
一度死んだと思って油断していた。きっと今の私は、前の私と違う、新しい自分なのだと思っていた。
けれど、違った。私は私のままで、不可思議の中、色んな感覚が麻痺していただけなのだ。
私は、男の人が怖い。
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2018/04/20(金) 07:03:07.34ID:WF5bB/yS0
長く沈黙が続いた。
と言っても、私が喋らないだけで、部長は黙々と作業をしている。
製図というのだろうか。三号と同じ素材の紙に、何かの設計図を描いているようだ。
落ち着くために何度も深呼吸をして、冷静になってもう一度考える。

私は一度死んだのだ。身体はあの感覚をはっきりと覚えている。
頭から落ちる気持ちよさ、生と死の境を超えた世界の美しさ。
それでも私はまだ、呪いに縛られている。きっと、いや、絶対に死ぬまで解けることのない呪い。
そしてそれは、私を私たらしめる要素でもある。
私が、私として生きている間は、この呪いからは逃げられないということだろう。
そうだとするなら、すべきことは簡単だ。すぐにでもまた、もう一度死ねばいい。
思い立ったが吉日、私はすぐに部室を出ることにした。
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2018/04/20(金) 07:04:07.76ID:WF5bB/yS0
「部長、今日は――」
「君に言わなきゃいけないことが二つほどある」
部長は私の声を遮って、手を動かしたまま私に話しかけた。
大丈夫、心は落ち着いている。話をする程度なら問題ない。
「なんでしょうか?」
部長はペンを机に置き、身体をこちらに向けて、私の目を見た。
先ほどまでの物柔らかな顔つきではなく、どこかで見たことあるような顔。
ああ、これは。
真面目な話をする時の大人の顔だ。
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2018/04/20(金) 07:05:00.41ID:WF5bB/yS0
「僕はね、一度死んでいるんだ」

心臓の音が、鼓膜を破りそうなほど大きく鳴った。
頭で理解する暇も作らず、部長は続ける。
「君と同じ、死んだ後に行けない人間だよ。何度死んでも、また今日をやり直してしまう」
口の中に溜まった唾液を胃に流し込んで、私は聞いた。
なるべく簡潔に、聞きたいことだけ。
「……どうして死のうと思ったんですか?」
「話せないこともないんだが、どうにも複雑でね。僕自身、どうして死のうと思ったのかはハッキリと分からないんだ。それでも答えるとするなら、考えることが嫌になったからかな」
私と同じだった。
0024名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 07:06:33.92ID:WF5bB/yS0
死にたいと思った事は何度もある。けれどそれは思うだけで、行動に移したことはなかった。死ぬ間際の事、死んだ後の事、死にたい理由、それらすべてを考えている間に、死ぬことが馬鹿らしく思えてくる。
そして、実際に死のうと思った時、そこにある理由ははっきりとしたものじゃなく、とてもふわふわとした曖昧なもの。

脳が考えることを拒否しているのだ。

毎日のように苦悩に苛まれ、擦れ切った脳と心は、些細なことでも深く考えるようになる。
そうしていつの日か、エラーを起こす。何かを考えようとすると、身体が拒否反応を起こす。
「君も、きっとそうだ。ならこれ以上この話をする必要はないし、僕から君の自殺理由を聞くこともない」
そうだ、私もそうだ。
考えることに疲れて、考えることを放棄した。そしてそれが悪いことだとも思わない。
だから、これ以上の会話は必要ない。今の私と部長の間にあるのは、同じ、死んだ後の人間だということだけだ。
部長がどうして、私が死んだ事を知っているのか。どんな苦悩を背負ってきたのか。
それは考えるだけ無駄なことだろう。
0025名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 07:08:58.48ID:WF5bB/yS0
「僕はもう七年は今日を繰り返している」
部長は淡々とした口調だ。そこには憂いも喜びもなく、ただ機械的に声を出しているように思えた。
「……七年もですか?」

正直言って、最悪だ。

同じ日を何度も何度もやり直すなんて、退屈で仕方がない。
「君は、今日が初めてだろう? この部室はね、人が来ないんだよ。
 紙飛行機はいつも違う軌道を描いても、人が来たことはない。今日は正しく今日のまま、毎日同じように終わるんだ」
つまり、少しの誤差はあれど、今日は死ぬ前と同じように進むということだろう。そこに不思議なんてない、同じことのやり直しをするだけだということ。
その同じ毎日に、私が来た。
0026名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 07:10:32.36ID:WF5bB/yS0
「……理解しました。部長は退屈な今日をずっと続けていたんですね」
「いや、そこは違うよ。僕は今日を退屈だと思ったことはないんだ。それが二つ目の話」
部長はさっきまでの淡泊な喋り方から、少し喜を孕んだ、跳ねるような喋り方に変わった。
さっきまでの話は、きっと私の事を思って話したのだろう。
考えることが辛い中で、私が手を振りほどいた意味をしっかりと噛みしめながら、私の次の行動を予測して、死んでも変わらないのだと伝えてくれたのだ。
本当に、嬉しいことだと思った。
0027名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 07:12:32.75ID:WF5bB/yS0
「二つ目はね、僕がやりたいことの話なんだ」
部長は先ほどまで描いていた製図を、私が見やすいように角度を変えてこちらへ滑らせた。
「これは?」
「それはね、四号だ。いや、本当の所は何百号か分からないんだけど、名前としては四号。僕の最高傑作になる紙飛行機の設計図だよ」
無数の線と数字が図面上を踊っている。太いペンで結ばれた線と線が紙飛行機の図になっていることだけが理解できた。
「今日飛ばした三号は、何度も飛ばしているんだ。そして今日、初めて屋上まで飛んでくれた」
なるほど、三号は何度も飛ばしていたのか。今日を何度もやり直せるのなら、風向きの計算や角度の調整が正確に出来ていた事も説明が付く。
「そしてそれが成功した今日、初めて四号の製図が出来た。これは屋上まで飛ばすなんて小さいものじゃない、地平線の彼方に消えるまで飛ぶ紙飛行機になるんだ」部長は立ち上がって、声を大きくして言った。
「そんなことができるんですか?」
「できるんだ。今日までずっと風向きのデータを取ってきた。そして紙飛行機の事も、よく飛ぶ理由なんて通り越したほど理解した。絶対にできる」
部長は熱くなった事を自分で察したのか、椅子に座りなおして咳払いをひとつした。
0028名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 07:15:28.03ID:WF5bB/yS0
「……本当に難しいことじゃないんだ。三号を縮小して、屋上から飛ばす。それだけで、四号は地平線まで飛んでくれる」
それが本当なら。
私は、見てみたい。
今日見た、とても美しい飛び方をする、紙飛行機。
たったひとつの力だけで、雨にも風にも負けずに前に進む、私なんかよりよっぽど強い紙飛行機。
それよりももっと美しいものが見れるのなら、私は。
「四号は明日飛ばす。今日書いたこの設計図は明日にはまた消えてしまうけど、一度書いたものを忘れるほど僕は馬鹿じゃない」
部長は、今まで何度もやってきた、と小声で続けた。
「だから、君に見てほしいんだ。三号を美しいと言ってくれた、君にね」
「願ってもないお話です。私も、その話を聞いて、見たいと思いました。……きっと私は――」
0029名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 07:15:41.89ID:WF5bB/yS0
きっと私は、本当に死ねると思った。
0030名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 07:16:57.10ID:WF5bB/yS0
次の日になって、私はまた家のベッドで目が覚めた。
やはり部長が言った通りのようだ。またあの感覚が、残っている。
昨日、あの後すぐに部長と別れ、屋上から飛び降りた。
私がすぐに飛び降りたのは、飛び降りるはずだった時間だからかもしれないし、今日を待ちきれなかったからかもしれない。
でも今はそんなこと、どうだっていい。なんだかすごい気分が高まっているのだ。
携帯なんてどうでもいい、致命的な穴が開いた布団なんてどうでもいい。
私はベッドから飛び起きて、身支度をした。

初めての感情かもしれない。

今だけは、死にたくない。
0031名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 07:17:56.01ID:WF5bB/yS0
学校に着いて、真っ先に部室に向かった。
部長は既に来ているだろう。製図をして制作をするには時間がかかる。
紙飛行機を飛ばすのは十一時過ぎとのことだ。その時間が一番タイミングが良いらしい。
部室へ入ると、やはり部長はいた。既に制作に取り掛かっているようだ。
勢いよくドアを開けてしまったので、部長は驚いた様子でこちらを向いた。
「びっくりした。脅かさないでくれよ、いつもと違うことに慣れてないんだ」
「すみません、何か手伝えることはないかと思って」
0032名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 07:19:00.92ID:WF5bB/yS0
本当は飛ばす時間まで何処かで暇を潰していてもよかったのだが、居ても立っても居られなかった。
私も何か、四号に手を加えることで、私の中の何かを乗せたいと思った。
それは子供の頃に持っていた夢や、希望のようなもの。その何かを四号に乗せて、遠くまで飛んでもらいたいと思った。
「そういうと思ったよ。だからほら、まだ折ってない。これを見てくれ」
その紙は、綺麗に切り取られた、バランスの悪い四角形。薄い線で折る場所の目安が書かれてある。
「これを折って、反発で形が崩れないよう固定してしばらく放置するんだ。その前に、君に何か描いてもらおうと思ってね」
「私にですか? 部長は何か描かないんですか?」
デザインをしていいということだろうか。我ながら大役だ。
0033名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 07:20:29.47ID:WF5bB/yS0
「僕はほら、そういうの苦手だから」
「私も苦手ですよ」
「そうなんだ。てっきり苦手なのは僕だけかと思った」二つの意味でね、と部長は悪い顔で笑う。
「部長って結構意地悪なんですね」
顔をしかめる私に、部長は「ごめんごめん」と謝って、「でも本当に苦手なものなんてないように思えたから」と続けた。
「それじゃあ、描かせてもらいます。時間もないでしょうから、すぐに」
部長から紙とペンを受け取って、私は描いた。
書いた。
たった一文字。
0034名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 07:21:37.40ID:WF5bB/yS0
「……もう終わり?」
「はい。これだけで十分です」
私は部長に紙を渡して、椅子に座った。
部長は目を丸くして紙を見つめていたが、暫くして、軽快に笑った。
「ははは、これは良い。いや、本当に」
くくく、と笑いながら部長は折り目を付け始める。
繊細な作業だろう、笑いながらで大丈夫なのだろうか。
「そうだな、幸せを運ぶ四号って所か。いいね」

私が書いた文字は、『幸』。
幸せも、不幸せも一緒くたにした、私の根本だ。
私は四号に、これを乗せたいと思った。
0035名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 07:22:31.02ID:WF5bB/yS0
十一時を前にした屋上は、まだ雨は降っていなかった。
どんよりとした雲が空を包み込んでいる。
ふと部長の方を見ると、四号の最終調整をしているようだった。
小ぶりな四号は、部長の手のひらよりももっと小さい。
私は、本当にこんな大きさで地平線まで飛ぶのかという不安があった。
その不安は部長も同じようで、やはりどれだけ経験を積んでいても、結局は飛ばすまで分からないということだろう。

「飛びますかね」
「飛ぶさ」

会話もだいぶ減った。緊張しているのだ。
身体はその時を今か今かと待っているようで、少しだけ震えている。
気を紛らわすために、私が飛び降りた方とは逆の景色を眺める。
沢山の建物がひしめき合って、豆粒のような車が平和な日常を演出していた。
0036名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 07:24:21.74ID:WF5bB/yS0
「さて、そろそろだ」

小雨が降ってきた頃。
部長は時間を確認してから立ち上がって、発射機を持つ。
こちらも、四号のサイズに合わせた小さめのものになっている。輪ゴムも前より細く、割りばしも二本束ねたものだ。

「……お願いします」

部長はフェンスを乗り越えて、塀に立ち、四号にゴムを引っ掛ける。
これで、全てが決まってしまうのではないかと思った。
いや、きっと全てが決まる。
私の死も、部長の死も、何もかも。
これが飛ばなかったら、私もきっと飛べない。いつまでも飛び降りることしかできない。
もしかしたら、部長はまた何度でも挑戦すればいいと思っているのかもしれない。

あるいは、その逆か。

冷や汗と吐き気が私を襲った。恐ろしく早い鼓動に、身体が危険信号を出している。
待ってください、と声を出しかけたその時には。
0037名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 07:24:32.92ID:WF5bB/yS0
四号は既に、空の上にいた。
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2018/04/20(金) 07:25:25.53ID:WF5bB/yS0
部長も私も、それを眺める。

打ち上げられた四号は綺麗に曲線を描き、やがて風に乗る。

まだ小さい雨粒が四号を打ち付けているが、それにも動じない。

まっすぐ、まっすぐ飛んでいく。

少しずつ落ちているなんて、信じられない。本当に飛んでいる。

小さな体で、大きな空を、ただ目の前だけを見つめて飛んでいる。

何分も、何分もそれを見続けていた。

どんなに小さくなっても、目はそれを逃さない。

やがて、見えなくなった。

それでも私と部長は、四号が飛んだ先を見続けた。
0039名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 07:26:35.01ID:WF5bB/yS0
十分はそうしていた。感動なんて通り越して、なんだかおかしな気分だった。
胸のつっかえが取れたような、けれど何かが胸からこみあげてくるような、そんな感覚。
部長が、名残惜しそうな顔でこちらを向いた。

「……やったな」
「……はい。とても――綺麗でした」

部長がフェンスを跨って、こちらに来た。
私の隣まで歩くと、そのまま寝転がった。

「よーし! やったぞ! 俺はやった!」

部長は大声で叫んだ。
私も何か叫びたかった。
でも、声が出なかった。
出したくなかった。

「……おい、泣いてるのか?」

いつの間にか、私は泣いていた。
雨のせいで、いつから泣いていたのかは分からない。もしかしたら、これは涙じゃなくて頬を伝う雨なのかもしれない。
四号はまっすぐに飛んでくれた。私の、私と部長の幸を乗せて、ずっとずっと遠くまで。

「……よく分かりません。考える気も起きません。でも、すごく感動してます」

見れば分かるよ、と部長は言った。
本当に、本当に。
死んで良かったと、心から思った。
0040名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 07:27:31.64ID:WF5bB/yS0
落ち着いた後、部長と私は雨の中、屋上で話をした。
生まれ変わったら何になりたいのか、男がいいか女がいいか、そんな他愛もない話。
雨の音は不思議と静かで、会話するのに困ることはなかった。
二人びしょ濡れの制服姿で、笑いながら泣いて、泣きながら笑った。
暫くそうして、雨が晴れた頃、部長は部室へ帰って行った。

きっとあそこが、部長の死ぬ場所なのだろう。

私はひとりになった後、四号の事を考えた。
私と部長の幸を乗せた紙飛行機。願わくば、誰かの元に届いて欲しいと思う。
最後まで生きられなかった、生きようと思えなかった私の、ほんの少しの幸せと不幸。
今度は別の誰かの元で、最後まで生き抜いて欲しい。
0041名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 07:27:48.95ID:WF5bB/yS0
フェンスを乗り越えて、一息吸って、吐く。
0042名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 07:28:11.80ID:WF5bB/yS0
屋上は、懐かしい匂いがした。
夏を間近にした梅雨の風が、濡れた草の香りを運んでくる。
びしょ濡れだった制服も長い髪も、すっかり乾いている。身体にぴたりと張り付いた制服は、剥がそうとすると、やっぱり、ちょっぴり痛い。
そのまま、ゆっくり、ゆっくりと身体を外へ傾ける。
ほんの数秒が、とても長く、長く感じられた。
0043名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 07:28:32.31ID:WF5bB/yS0
暫く経つと、がくん、身体が急に傾いて、ローファーを履いた私の足が顔の横をかすめていく。
私の視界には、細い足と曇った空。
頭が真下へ、落ちる。
落ちてゆく。
ほんの数秒の間に私が思った事は二つ。
0044名も無き被検体774号+ (ワッチョイ b36f-9jjH)
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2018/04/20(金) 07:29:25.59ID:WF5bB/yS0
さよなら。
ありがとう。
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