
「千の風になる」風景が、今後全国に急拡大する可能性
5人に1人の割合で墓じまいを敢行すれば、葬送に関わる宗教界や墓石業、葬祭業などへの影響は必至である。特に墓檀家を抱える寺院は、墓地の管理費や法事の収入が
大幅に減少するであろう。墓石業界では、旧来の家墓はすでに売れない時代に入っている。
鎌倉新書「お墓の消費者全国実態調査(2023年)」によれば、新たに購入した一般墓の割合は19.1%で、墓石をあまり必要としない樹木葬(永代供養)が51.8%と大きく水を
開けられている。すでに現在、墓石店の多くで新規墓石建立の需要よりも、墓じまいの需要のほうが多くなる逆転現象がおきつつある。つまり、墓石店が実質「墓じまい店」になっているのだ。
寺院の場合、仮に檀家が墓じまいをしても、同じ寺院や霊園の中の永代供養に遺骨を移してもらえれば、経営面での影響は小さくて済む。だが、今回の調査では18.2%が「お墓は
不要」と回答し、また、「散骨・海洋散骨など」を希望する割合も5.0%に及んでいる。
「墓はいらない」という意識の高まりは今後、火葬のあり方にも影響するであろう。多死社会による「火葬ラッシュ」が始まっている中、ゼロ葬(火葬場から遺骨を持って帰らない)の
増加が想定される。また、一部で始まっている遺骨まで含めてすべてを焼き切ってしまう新たな火葬サービス「焼き切り」が一般化していく可能性すらありそうだ。焼き切りは、
火葬炉の温度を高温に上げて遺骨として残さず、灰にすることだ。現在、ごく一部の火葬場で請け負っている。
かつて新井満氏が訳詩したヒット曲「千の風になって」は、死者が遺された人に語りかける形で、自分は墓の中ではなく、風や光、星、鳥などになって、大空から見守っているというメッセージが込められた。
遺骨を残さない時代――。まさにそんな「千の風になる」風景が、今後全国に急拡大するかもしれない。
https://trilltrill.jp/articles/4136392