
マンション駐輪場に約3年にわたり許可シールもなく放置されていたバイク。時間の経過とともにタイヤはパンクし、ハチの巣まで作られたため、たまり兼ねた管理会社が持ち主の入居者を突き止め、電話で「同意」を得た上で撤去したはずだった。だが、入居者側との訴訟トラブルに発展した末、大阪高裁は撤去を違法と判断して会社側に賠償を命じた。「同意は無効」とする入居者側の主張が通ったのは、会社側が電話で用いた方便≠フせいだった。
京都府内のマンションで、管理会社が放置バイクに気づいたのは令和2年10月ごろ。何度警告文書を貼り付けても状況は変わらず、「ハチの巣ができている」という苦情を受けて駆除したこともあった。業を煮やした会社側は4年10月、ほかの放置車両とまとめて撤去することにした。
バイクのシート内を調べると入居男性名義の保険書類があったため、会社側は撤去の同意をもらおうと男性に連絡。男性がバイクを使っていたのは平成31年4月の入居後2〜3カ月の間だけで、約3年間は乗っていなかったというが、「今後は運転するので撤去しないで」と応じない。何とか撤去したい会社側は説得を試みた。
「警察と弁護士にも相談して実施している撤去なので、今さら覆らない。同意してもらわないと、こっちが困る」「放置車両はこちらに撤去する権利がある」
会社側が弁護士らに相談した事実はなく、法的な権利を把握していたわけではなかったが、言葉を重ねると、男性は諦めたように「分かりました。お願いします」と撤去を認めることとなった。
男性は諦めるも妻は納得せず
後で経緯を聞いた男性の妻は納得せず、男性はその後、約40万円の損害賠償を求め京都地裁に提訴。会社側の誤った説明によって「同意するしかない」と勘違いしたため、撤去は正当ではないと主張した。しかし、地裁は放置されたバイクに乗車するには相当の整備費用が必要な状態を踏まえ、「処分費用がかからないという説明を受けて同意する動機があり得る」と指摘。必ずしも勘違いだったとは認められないとして請求を一蹴した。
これに対し、今年3月の大阪高裁判決が注目したのは、撤去直前の経緯だった。管理会社側は放置バイクの写真をマンション内に掲示し撤去を予告。夫婦はこれに気づき、管理会社に駐輪シールの交付を申請していた。ただ会社側のミスで交付されず、撤去担当者も申請自体を把握していなかった。
高裁はこれを踏まえ、夫婦が撤去当時「バイクの放置状態を改め、運転する意思を有していた」と判断。会社側の説明を聞いた男性が「撤去は覆らない」と勘違いしたと認め、会社側の一連の対応を「違法に所有権を侵害した」と結論付けた。男性がバイクを長期間放置していたことについては考慮しなかった。
その上で高裁はバイクの時価を1万3千円と算定。慰謝料5万円、弁護士費用1万円と合わせ、会社側に計7万3千円の賠償を命じた。双方上告せず、判決は確定している。
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