東京新聞
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2024年4月29日 12時00分

 埼玉県南部に約2000人が暮らすクルド人が、差別や偏見をあおるヘイトスピーチの標的になっている。生活習慣の違いなどによる摩擦はこれまでもあったが、クルド人も日本に溶け込むため努力をしてきた。ヘイトはこの一年、SNS(交流サイト)上で急激に拡散。クルド人の生活にも影響を及ぼし始めている。(森本智之)

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◆トルコ政府の「テロ支援者」指定は鵜呑みにできない

 もう一つ、ヘイトが増加するきっかけが昨年11月に起きた。トルコ政府がクルド人団体「日本クルド文化協会」(川口市)と幹部6人を「テロ組織支援者」と名指しし、トルコ国内での資産を凍結したのだ。

 だが、トルコ政府の主張をうのみにするのは早計だ。英国内務省の2020年の報告書によると、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルのトルコ担当者は「クルド問題について政府を批判すると、その批判はテロリストのプロパガンダ容疑で人々を起訴するのに利用される可能性がある」などと証言。
ヒューマン・ライツ・ウオッチの同年の報告書もこう記す。「トルコにおける司法に対する行政の支配及び政治的影響により、裁判所は現政権が政敵と見なす個人及び集団を拘束して有罪判決を下すようになった」

 日本のクルド難民弁護団は一連の報告書を踏まえ、資産凍結を根拠に在日クルド人を危険視する発言に反論する声明を今年3月に出した。大橋毅弁護士は「トルコでは、テロ対策の名目でクルド人の弾圧が行われている。
協会はテロに関係していないし、トルコ政府から『テロ支援者』と名指しされているということは、政治弾圧を受けていることにほかならない」と述べつつ、戸惑いも漏らした。「これまで、こうした対応を迫られるようなクルド人への差別発言を日本で経験したことはなかった」