なぜ人類は牛乳を飲み始めたのか、動物界では異例、いまだに謎
2023.09.19 National Geographic
アイスクリーム、バター、ヨーグルトにチーズ、そして背の高いグラスに注がれた冷たい牛乳。現代では、乳製品は食生活に欠かせない重要な食材だ。
しかし、牛乳不使用のココナッツアイスクリームやカシューバター、オーツヨーグルトなどの普及からわかるように、牛乳を飲まない選択をする人もいるし、牛乳をうまく消化できない人はもっとたくさんいる。
太古の昔、私たちの祖先は他の哺乳類と同じく、乳児期を過ぎるとミルクを消化できなかった。現在も、世界の68%の人は、ミルクに含まれる乳糖(ラクトース)を
うまく分解できない乳糖不耐症だと推定されている。それなのに、かなり多くの人が他の動物のミルクを飲んでいる。これは実に不思議なことだ。
■人類が動物のミルクを飲み始めたのはいつ?
人類が動物のミルクを摂取していた最古の証拠は9000年近く前にさかのぼり、マルマラ海に近い現在のトルコで見つかっている。
ヒツジ、ヤギ、ウシの群れを中心とした遊牧生活を送っていた古代の牧畜民にとって、ミルクは重要な食料だったと考えられる。
古代人の歯石を分析した結果、遊牧が有利になる環境だった6000年前の東アフリカでヤギのミルクが飲まれていた証拠が見つかっている。
■ミルクを飲む習慣が世界中に広がる
トルコで生まれた酪農技術と牧畜民はコーカサス地方に拡大し、その後、ヨーロッパにも広がった。
ポーランド中央部では、紀元前6千年紀(紀元前6000年~5001年)のこし器のような陶器の破片から、チーズ作りの最古の痕跡が見つかっている。
約3000年前の青銅器時代には、赤ん坊の離乳に牛乳が使われていた可能性がある。
一方、広大なユーラシアステップでは、ヒツジやヤギ、ウマ、ラクダ、ヤク、時にはトナカイまで引き連れた遊牧民が、匈奴やモンゴルなどの遊牧大国の繁栄を支えた。
乳製品がこうした社会のエネルギー源だった証拠も見つかっている。
■一部の人だけミルクを消化できるのはなぜ?
近年の研究結果から、ミルクを飲む習慣が遺伝子変異よりも先に広がっていたことがわかり、ミルクの摂取に遺伝子変異が必須ではなかった可能性も示唆されている。
2022年に学術誌「ネイチャー」に発表されたエバーシェッド氏らの研究によれば、遺伝的にミルクを消化できる能力が広がる数千年前から、ヨーロッパの人々はミルクを摂取していたようだ。
モンゴルでは乳製品が生活に重要な役割を果たしているが、乳糖を消化できる遺伝子変異をもつ人は少ない。この点については、腸内の微生物が消化を助けているという仮説を一部の科学者が立てている。
ワリナー氏がモンゴルで行っている研究では、遺伝子上は差がないにもかかわらず、農村に住む人々は都市に住む人々よりも乳糖を消化する能力が高いことが明らかになった。
「ミルクを消化できるなら、あなたは遊牧民の血を受け継いでいるかもしれません。わくわくしますね」と研究者は言う。
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/23/090800465/