安倍晋三元首相の銃撃事件で、殺人罪などで起訴された山上徹也被告(42)の公判前整理手続きに注目が集まっている。山上被告が出席予定だった奈良地裁で不審物騒動があり、思わぬ形でニュースになったが、原則非公開とされる同手続きについて「歴史的事件で国民が注視している」とジャーナリストらが傍聴を認めるよう異例の要望を行ったのだ。地裁は公開しないとみられるが、同手続きの在り方に一石を投じることになるかもしれない。

「この事件では当初から陰謀論が飛び交っている。透明性を高めないと、裁判をしても陰謀論が強まることになりかねない」

ジャーナリストの江川紹子さんは4月、山上被告の公判前整理手続きが実施される奈良地裁に要望書を提出した後、奈良市内で開いた会見でこう述べた。

銃撃事件を巡っては交流サイト(SNS)を中心に「共犯者がいる」とか「別の犯人が狙撃した」など無責任な流言が、さも確たる根拠があるように語られている。こうした「陰謀論に力を持たせない」(江川さん)ためにも、裁判の全過程をオープンにし、後世に検証可能な状態にしておくことが大事だ、と訴えた。

そもそも公判前整理手続きは「公判準備」と位置付けられ、公開は前提とされていない。山上被告のケースのような裁判員裁判の対象事件では必ずこの手続きに付さなければならず、また被告の出頭も可能だが、裁判員は関与しない。

「弁護人の立場でも、無罪を勝ち取るための駆け引きや検察官に証拠を出させるための問題提起の仕方など、公開法廷よりも赤裸々な本音のやり取りをする」

刑事弁護に詳しい亀井正貴弁護士(大阪弁護士会)は公判前整理手続きの性格をこう解説。「公開されれば双方本音を言いにくくなる。公判に向けた打ち合わせという手続きの実質が失われかねない」と実務面のデメリットに言及した。

最高裁も「手続きの趣旨を踏まえ、非公開になっていると承知している」と現状の運用が妥当との見解を示す。過去に公開されたことがあるかどうかは「把握していない」としており、ほぼ公開事例はないとみられる。

(後略)

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