<社説>ツイッター買収 公共性を保てるのか
2022年11月9日 07時45分

 米企業家のイーロン・マスク氏が総額四百四十億ドル(約六兆五千億円)に上る米ツイッターの買収取引を完了させ、最高経営責任者(CEO)に就任した。
 その途端、収益改善を理由に人権担当を含む職員の半数解雇に踏み切り、米中間選挙では共和党候補へ投票するよう投稿で呼びかけた。一日二億人超が利用する巨大交流サイト(SNS)の公共性や中立性を損なう行為だ。マスク氏は社会的責任の重さを自覚して経営に当たるべきである。
 マスク氏は買収前、ツイッターが連邦議会襲撃事件を受けてトランプ前大統領のアカウントを永久凍結したことを批判。ツイッターの投稿規制を言論の自由の観点から「検閲」と批判していた。
 マスク氏のツイッター買収後、差別や暴力、誹謗(ひぼう)中傷を助長する投稿や偽情報が野放しになるのでは、との懸念は現実味を帯びている。米大学などの調査では買収直後、差別用語を使った不適切投稿が急増している。
 SNSは事故や災害時の重要な連絡手段であり、人々の生活に欠かせない公共性の高い存在だ。
 国連の人権高等弁務官が公開書簡で、マスク氏が「広く多様な視点を持つ投稿監視の評議会」を設けると表明した後に懸念を表明したのも、投稿管理が国際社会に与える影響が大きいためだ。
 買収後、投稿管理を巡る姿勢に不信を抱く大手企業が広告出稿を相次いで見合わせた。マスク氏は収益増を図るため、著名人らに付与するアカウントの認証マークを一般利用者にも有料で拡大する方針を表明。他人になりすましたアカウントを警告なしに永久に凍結することも明らかにした。
 買収を一時撤回したようにマスク氏の唐突な方針転換や説明不足は利用者の不信を募らせている。重要決定を短い投稿で散発的に知らせるやり方で利用者の理解を得るのは難しい。上場を廃止し、非公開企業となればなおさらだ。
 ツイッターが有する公共性の維持と投稿管理をどう両立し、経営を立て直すのか。マスク氏は利用者に説明を尽くさねばならない。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/212864