社説[先島にシェルター]まずは国会で議論せよ

 政府が台湾海峡や南西諸島での有事を想定し、先島諸島などで住民用の避難シェルターを検討している。米中対立による「台湾有事」の脅威から、万が一の備えを強化する動きだ。

 内閣官房は2023年度予算の概算要求で、武力攻撃に耐えられるシェルターに関する調査費を計上した。整備の候補地として石垣市など複数の自治体が浮上している。

 国民保護法は都道府県知事に避難施設の指定を規定する。石垣市、竹富、与那国両町でつくる八重山市町会は7月に県庁を訪れ、避難シェルターの整備を要請していた。県にはシェルターに関する情報は届いていないという。

 仮に、戦闘に巻き込まれた場合、離島からの避難は陸続きの本土に比べ時間を要する。同法に基づく試算では、石垣市、竹富町の住民と観光客ら計約6万5千人を民間機で輸送する際、10日弱かかるという。航空機や船舶の確保を考えた場合、さらに時間がかかることも想定され、計画自体が非現実的だ。

 中国の軍備増をにらみ、日米の軍事一体化や自衛隊の南西シフトが進む。沖縄の基地負担は軽減されず、逆に軍事要塞(ようさい)化され、「再び捨て石にされる」という不安が膨らんでいる。

 シェルターが有事の備えとして必要との声がある一方で、「本気で戦争をするつもりなのかと心配」と、不安を口にする住民も少なくない。

 77年前のガマと重なり、沖縄戦を想起する戦争体験者もいる。

 中国は8月、ペロシ米下院議長の台湾訪問に反発し、台湾周辺で軍事演習を実施した。日本の排他的経済水域(EEZ)内の波照間島や与那国島周辺海域に弾道ミサイルを着弾させた。

 東アジアの安全保障環境が危うさを増し、極めて危険な水準になりつつある。

 有事を回避させる日本政府の対応が重要で、日本の安全保障戦略が問われる。「抑止力」と言うのであれば、同時に「外交」も言わなければならない。抑止力ばかりを強調すれば周辺国が刺激され、日本側の意図が見誤れかねず、軍拡競争に陥ることにもなりかねない。外交との両輪がうまく機能して初めて緊張緩和が期待できる。

 間もなく日中国交正常化から50年。日本の役割をどう発揮するか。今、政府がすべきことは、シェルターが必要にならない外交努力だ。

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1026118