米国が「中国スパイ狩り」に本腰を入れている。中国の諜報活動は中央銀行や連邦政府など政策中枢から、
州・地方当局にまで侵食しており、米国の情報当局や捜査当局の危機感も強い。バイデン大統領は中間選挙、
習近平国家主席は共産党大会などそれぞれの国内事情を抱え、米中は対立姿勢を強めるばかりだ。

米共和党のロブ・ポートマン上院議員は7月26日、中国が米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)の
内部情報獲得のため、中国が広く工作活動をしているとの報告書を公表した。中国の工作員とつながる13人を特定、
8地区の連銀関係者が含まれていたという。内部文書のダウンロードや、中国政府関係者との接触などがあったとしている。

ブルームバーグによると、FRBのパウエル議長は同議員宛書簡で、機微に触れる情報にアクセス可能な職員の
包括的な身辺調査を行うと約束したという。

治安維持を担う機関でもスパイの摘発例が出ている。米検察当局は7月、米国土安全保障省に勤務した工作員2人を起訴した。
ロイター通信が伝えた。在米の中国反体制派に対するスパイ活動や嫌がらせ行為に関与したという。

また、米国家防諜安全保障センター(NCSC)は州や地方当局者に文書を送り、中国が自国の政策に有利になるような
工作をエスカレートさせると警告したという。ウォールストリート・ジャーナルは、当局者の個人情報を収集したり、
将来的に中国の利益を代弁してくれるようにキャリアの浅い当局者に接近するといった手口を報じた。

米連邦捜査局(FBI)と英情報局保安部(MI5)のトップがロンドンで演説し、中国による知的財産のスパイ行為や
西側への政治介入に危機感を表明した。FBIのレイ長官は「われわれの経済や安全保障にとって長期的な最大の脅威」
と警告した。

現代米国政治に詳しい上智大の前嶋和弘教授は「人権問題や、新型コロナの影響で米国内の対中感情は
過去最悪といってもいい。11月の米中間選挙もあって、中国を〝叩きがい〟のあるタイミングともいえるが、バイデン政権でも、
対中政策ではトランプ前政権の路線を継承する大きな流れにある。今後も次々に同様の事例が出てくるとみるべきだ」と語った。

中国では習近平国家主席が異例の「3選」を決めるとされる秋の共産党大会を前に、党長老が集う北戴河会議など
重要な政治日程が続く。

評論家の石平氏は「西側の対中包囲網が強まる中で、米国の反中感情を内部から瓦解(がかい)させ、親中世論を形成したり、
台湾有事に米国がどう出るか探る狙いもあるだろう。習氏は秋の党大会を前に、対米工作で成果を挙げたい思惑も
あるとみられるが、今後は対日諜報活動も高まる可能性がある」と見据えた。
https://news.yahoo.co.jp/articles/85d510ce1f7057b9fe9e7f23771fe874ce98f01a