冷たい水よりも熱い水のほうが速く凍る場合があると指摘したのは、ムペンバが最初ではない。二〇〇〇年以上前からそのような観察結果が存在するのだ。紀元前三五〇年頃のギリシャでは、アリストテレスが次のように記している。

 水はそれまで温められていたことで速く凍る。それによって速く冷えるからだ。(そのため多くの人は、水を速く冷やしたいときには日光に当てる。ポントスの人々は、魚を釣るために氷の上にテントを立てる際(氷に穴を開けてそこから釣りをする)、支柱のまわりに温水をかけて速く凍るようにする。氷を錘のようにして支柱を固定するのだ)。

 しかしいまは暑い国の暑い季節なので、氷が融けはじめてすぐに温まってしまう([3])。

 それから何世紀も経った一六二〇年には、自然哲学者のフランシス・ベーコンも著書『ノヴム・オルガヌム(科学の新しい道具)』の中で、「かなり冷たい水よりも少し温めた水のほうが容易に凍る」と述べている。
一六三七年には、猫を投げ落としたとされるあのルネ・デカルトが有名な『方法序説』の付録『気象学』の中で、「長時間高温に保った水がそれ以外の水よりも速く凍ることは、実験によっても確かめられる」と記している([4])。