世に言う「大国」とは何を持って定義されるのであろうか。経済力があり、資源や人材が豊富で軍事力もある。いや、それだけではないのかもしれない。ロシアのウクライナ侵攻を受けて、元ウクライナ大使だった黒川祐次氏の著「物語ウクライナの歴史」(中公新書)を手にした。大草原を駆け抜けた騎馬民族、世界制覇をもくろむモンゴル、ロシアやポーランド、オーストリアなどの大国の興亡…。かの地を舞台にした、その悠久の歴史に舌を巻く。

黒川氏はウクライナに「大国の可能性」を見る。国土面積の広さも「大国」の条件であろう。ロシアにこそかなわないが、ウクライナは堂々ヨーロッパ第2位の広さ。鉄鉱石は欧州最大の産地、小麦の産地である肥沃な大地を抱え、耕地面積は農業国・フランスの2倍だそうだ。さらに今ロシアが攻め入る東部には旧ソ連邦域内最大の工業地帯が広がる。国民の教育水準は高く、科学者・技術者の層も厚く、IT大国でもある。見た目、十分な大国である。

大国の定義の一つに、その歴史の厚みも加えたい。周辺の民族と大国が織りなす攻防のはざまにあり、分厚く、たくましく、勇敢な歴史を積み重ねた、その地層の豊かさと深遠さにはただ脱帽である。若干44歳で国家を守り抜くゼレンスキー大統領を見れば分かるが、ロシアという魑魅魍魎(ちみもうりょう)の敵を相手に一歩も引かず、地政学的な要衝の地ではぐくまれてきたであろう政治・外交能力のしたたかさには、既に大国の風格さえ漂う。

大国が小国を侵攻するという概念は、ロシアに限って言えば当てはまらない。何しろ、既にロシアは「大国」ではないからだ。原油と天然ガスだけが頼みの綱で、プーチン時代に国内産業力は低迷したまま。国民の豊かさを示す1人当たりGDP(国内総生産)を、旧東側諸国だけでみても、バルト三国やハンガリー、ポーランド、ルーマニアの後塵を拝してしまっている。侵攻によって、世界の投資はロシアには向かない。経済の低迷は限りなく続く。

「最大の国が戦争を起こした。道徳の面では最小の国だ」。

ゼレンスキー大統領は日本の国会演説でそうオンラインスピーチした。道徳だけではない。政治体制への深い洞察力にしても、世界経済をけん引していくイノベーション力にしても、ロシアは最小の国に成り下がった。22年間もの間、権力中枢に座り政権維持に汲々とするだけでは、国家の成長は望むべくもない。同一人物が20年以上、トップに君臨したままの会社は、同じく堕落しかない。

翻って、わが日本は大国と呼べるのだろうか。世界3位の経済力だけに経済大国ではあろうが、やや心許ない。ウクライナからの小手先の避難民保護は出来るだろうが、もともと難民には極めて冷淡な国である。ドイツ6万3千人、カナダ2万人、米国1万8千人を難民認定した年に、日本はわずか47人。こと「難民」に関していえば日本は江戸時代、鎖国中である。これでは8200万人の難民を抱える世界の中で、決して「大国」にはなれない。

日本は「大国」なのか
https://www.sagatv.co.jp/news/archives/2022040809178
2022/04/08 (金) 18:08 サガテレビ