法律や条例ができても、差別がはびこるのはなぜなのか。

 先の崔さんの代理人で差別問題に長年携わる師岡康子弁護士は、解消法の一番の課題は、禁止規定と制裁規定がなく実効性が弱い点だと指摘する。

「そのため、届け出の不要な街頭宣伝の回数はあまり減っていません。公人の発言、出版物やネット上のヘイトスピーチに歯止めがかからず、ネット上では匿名で個人や集団に対し連日、大量の差別書き込みが行われています。災害や事故の際には必ずネット上で犯人は○○人など差別的デマが投稿され、マイノリティーへの暴力の引き金となる危険な状態です。朝鮮学校関係者などへのヘイトクライムも止まりません」

 川崎市の条例は、日本で初めて差別を犯罪とした画期的な内容で、規制の対象となった言動はほぼなくなる効果が出ているとした上でこう語る。

「川崎市が突出しているため、レイシスト団体からの攻撃が集中し、運用が萎縮していることも事実です。他の地方公共団体の条例制定が緊急の課題です」

■差別は許されない示す

 崔さんは21年11月、ネット上で4年以上にわたり執拗に差別的な書き込みをされ名誉を傷つけられたとして、北関東在住の40代男性に305万円の損害賠償を求め、横浜地裁川崎支部に提訴した。訴状によると、男性は16年6月、「ハゲタカ鷲津政彦」と名乗るブログに崔さんの名前を挙げ「さっさと祖国へ帰れ」などと書き込んだ。投稿が法務局に人権侵犯と認められ削除されると、男性は崔さんについてブログなどで「差別の当たり屋」「被害者ビジネス」などと誹謗中傷を繰り返した。崔さんは言う。

「100%被害者である私が、時間と労力と費用をかけて裁判を起こす。そして毎回毎回、何に傷ついたのか説明を求められ、その度に心をえぐられます」

 それでも提訴に踏み切ったのは、ネットに溢れる在日朝鮮人への誹謗中傷などを見て、アイデンティティーを失い自らのルーツをも否定するようになる在日の若者や子どもたちのためだ。

「差別は許されないということが司法の場で示されれば、そうした若者や子どもたちの絶望を、少しでも希望で上書きできると思います」(崔さん)


https://news.yahoo.co.jp/articles/9412c2da23351fc693bc006543a9ae8b7666139c?page=3