長期化する米中対立は今年、台湾を巡り緊張感が一気に高まった。中国は台湾の防空識別圏に中国軍機を頻繁に進入させるなど軍事的圧力を強め、バイデン米政権は中国軍による台湾侵攻の懸念から台湾支援の姿勢を明確化させた。沖縄を中心に多くの米軍基地を抱える日本の対応も問われている。(ワシントン・金杉貴雄)
◆中国軍が台湾侵攻の「リハーサル」
 「リハーサルのようだ」。オースティン米国防長官は今月、中国軍の活動が台湾侵攻の演習の可能性があると指摘した。台湾の邱国正きゅうこくせい国防部長(国防相)は10月の立法会(国会に相当)で、2025年以降「中国軍が全面的な台湾侵攻能力を持つ」と発言。米国防総省も中国が6年以内に台湾有事の軍事的選択肢を得ると予測する。
 国交がないにもかかわらず、特殊な「同盟」とも指摘される米台関係。その根幹になっているのが米国内法の「台湾関係法」だ。
 同法は、外部勢力による「台湾への武力行使や強制」に、米国が対抗できる能力の維持を求めつつ、台湾には「自衛に十分な武器などを提供する」と規定。さらに大統領と議会は「台湾人民の安全や社会、経済制度への脅威、危険に対抗するため、とるべき適切な行動を決定しなければならない」との「義務」も定めている。
 台湾関係法 米国が1979年に現在の中国と国交を樹立し、台湾との公式の外交関係を断った直後に米議会が可決、カーター大統領(当時)の署名で成立。国内法上、台湾を外国の国や政府と同様に扱うことを規定。「平和的手段以外の台湾の将来を決定しようとする試み」は「いかなるものも西太平洋地域の平和と安定への脅威で米国の重大関心事」と位置づけた。

◆米大統領「防衛の義務がある」
 ただ米国はこれまで、中国侵攻への米国自身の反撃は明確にしない「戦略的あいまい政策」をとってきた。理由として、米研究機関イースト・ウェスト・センターのデニー・ロイ上級研究員は「米国が反撃を明確にした場合、中国のナショナリズムを過熱させる危険がある。そのリスクを避けつつ米国の介入を中国に考慮させ、台湾攻撃を阻止する目的」と説明する。
 それが今年に入り、バイデン氏は「米国には台湾防衛の義務がある」と繰り返し発言している。米当局は政策変更はないとしつつ、中国が「米軍は動かない」と誤解しないようけん制する狙いがあるとみられる。
 中国軍による軍事攻撃について、ロイ氏は(1)東沙諸島や金門島、馬祖島など島を制圧し降伏を迫る(2)海上封鎖(3)本格侵攻―の3つのシナリオがあり、特に(2)(3)は米軍の介入を予測。「経済的損害や国際的反発など中国に非常に犠牲が大きく、核戦争につながる恐れもある」と警告する。