本来、輸入価格を相対的に引き下げる円高は「消費者にとって良いことしかない」(大正大学の小峰隆夫教授)。
しかし、85年のプラザ合意、90年代のバブル崩壊、2008年のリーマン・ショックと、急激な円高が日本経済を痛めつけたことが経済界にとってトラウマとなった。
特にリーマン・ショックは韓国や台湾勢に押された電機業界が壊滅状態に追い込まれ、円高の負の印象を植え付けた。

 流れを変えたのが、安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」だった。
13年に始まった日本銀行による大規模な金融緩和は円安を誘い、株高も招いた。円安富国論が機能したかに思われた。

新型コロナウイルスが世界を襲って以降、さらに円安は進んでいる。
21年の主要国・地域の名目実効為替レート(図2)は、円が独歩安となった。国の輸出競争力を示すとされる実質実効為替レート(図1)は、約50年ぶりの円安水準となっている。

ところが、期待された「円安→輸出増→企業収益増→賃金増→日本の内需増→インフレ→経済活性化」という成長シナリオはいっこうに実現しない。
JPモルガン証券によると、過去20年で主要国の物価は40〜50%程度上がったが、日本はわずか2.6%の伸びにとどまった。賃金も底ばい状態といっていい。

それどころか、「円安は日本経済の好循環を生まない」(みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミスト)と、従来の定説を真っ向から覆す見方まで出始めている。

以下略
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/00975/