免疫系はウィルスや細菌などの病原体に遭遇した際に、免疫記憶を優先的に利用します。例えばウィルス感染の場合、最初に出会ったウィルス株の印象がいつまでも強く免疫系の記憶に残り、その後に同ウィルスの変異株に感染した際にも変異株に特異的な抗体を作らずに以前の株に対しての抗体ばかりを産生してしまうという事が起きるのです。このように免疫系が病原体に最初に出会った時の記憶に固執し、変異株感染時に柔軟で効果的な反応ができなくなってしまう現象が「抗原原罪 (original antigenic sin)」です。病原体の最初の変異体の感染時に誘導された抗体やT細胞は、レパートリーフリーズと呼ばれる抗原原罪の対象となります。抗原原罪はウィルスや細菌のような病原体だけではなくワクチンに対しても起こります。

本来の「原罪」とはキリスト教においてアダムとイヴから人間が受け継いだ罪を表す言葉です。遺伝子変異速度が速く、めまぐるしい勢いで新しい変異株が現れるウィルスに対する抗原原罪はワクチン開発者にとっての重荷ともなります。抗原原罪は1960年にトーマス・フランシス・ジュニアが初めて説明しました。抗原原罪の現象は、インフルエンザウィルス、デング熱、HIVなどのウィルスでも観察されています。

https://note.com/hiroshi_arakawa/n/n6856c78c9079