弱る工藤会組員「北九州では、もう飯が食えない」 変わるシノギ

 「北九州では、もう飯が食えない」

 数年前まで特定危険指定暴力団工藤会の組員だった男性は、ため息交じりに打ち明けた。

 高校を中退後、先輩に誘われ、21歳で組員となった。北九州市内外の飲食店から「みかじめ料」を集め、月に150
万円近く稼いだ。小倉の街で羽振りよく飲み歩いていた。

 転機は2014年9月に福岡県警が始めた「工藤会壊滅作戦」。市民への襲撃事件などで組幹部や組員が続々と逮捕さ
れた。飲食店関係者たちの目も冷ややかになり、「付き合えない」「縁を切る」と距離を置かれた。

 生活苦に陥り、上納金を賄うために車も売った。周囲の組員は続々と離脱した。組幹部に「家族を食わしていけ
ない」と直訴し、組を離れた。

 いまは土木関係の仕事に就いている。収入はかつての2割ほど。それでも「上納金の工面に苦しむ生活から解放さ
れただけ十分」と、納得している。

 福岡県警は壊滅作戦に着手した14年以降、21年6月末までに延べ448人の組員を立件した。工藤会の構成員と準構
成員は08年末に1210人いたが、昨年末には430人にまで減少した。

 捜査幹部は「今残っている組員も半数ほどは服役中。実質的に勢力は最盛期の2割以下に減っている」と話す。

 昨年9月、県警北九州地区暴力団犯罪捜査課は、北九州市八幡西区の黒崎地区の飲食店経営者らから、みかじめ料
名目で金を脅し取ろうとしたとして、恐喝未遂容疑で40代の工藤会幹部を逮捕した。

 「苦しいのは分かるが、払いよるやつは払いよる」。幹部は新型コロナウイルス禍で収入が減少した経営者らに
金銭を要求したとされ、県警の実態調査で発覚した。

 コロナ禍もあり、「伝統的」な収入源はますます細っているようだ。そんな中、気掛かりな動きもある。

 千葉県松戸市のJR松戸駅から歩いて10分ほどの住宅街。4階建ての細長いビルが工藤会系の組事務所とみられてい
る。近くに住む高齢の女性は「なるべく近づかないようにしている」と話し、足早に立ち去った。

 ビルが事務所になったのは10年ほど前。千葉県内でもヤミ金融や傷害などの事件で工藤会系組員が逮捕される事
件が起きている。警察も実態は十分には把握できていないが、地元関係者は「半グレのような若者が出入りしてい
る」。ある捜査関係者は「食い詰めた組員がどんどん北九州を離れ、関東に進出している」と指摘する。

 福岡県警は6月、新型コロナ対策の持続化給付金をだまし取ったとして工藤会系組員ら8人を詐欺容疑で逮捕した。
別の暴力団の元組員や土木作業員らと役割分担し、パソコンを使って給付金をだまし取っていたとされる。

 壊滅作戦や暴排運動によって工藤会の弱体化は進んでいるものの、組員たちは生き残りを模索して活動の範囲や
資金調達の手法を刻々と変えている。

 捜査を指揮する福岡県警幹部は、気持ちを引き締める。

 「工藤会のシノギ(資金源)が変わってきている。あらゆる法令を駆使して資金源対策をしないと太刀打ちでき
ない」
 https://news.yahoo.co.jp/articles/b68deb167307fa96844251a317af6a0d7e92cd45