https://news.yahoo.co.jp/byline/onomasahiro/20210814-00253177

ワクチン接種計画の目的はどこに

ワクチン接種が先行していた英国と異なって、日本はワクチン接種とデルタ株への対応を同時に行わなければならない状況にある点は要注意である。それゆえにデルタ株の特性をふまえて、ワクチン接種の目的を明確にし直す必要があろう。

今週、福島市が、デルタ株による重症化の危険が明瞭になっている40ー50代の接種を遅らせて、20代や10代を優先する方針を発表した。福島市の理屈は、現在20代を中心とした若い世代の感染例が多いことからワクチンで流行を抑制するつもりだという。

しかしながら、ワクチンがデルタ株の流行を止められるわけではないこと、感染後の重症化率は10ー20代では低く、40代、50代と年齢があがるにつれて高くなることを考えると、福島市の方針では犠牲者が増える可能性の方が懸念される。

これは目的の欠落・はきちがえによるものであり、日本独特の「職域接種」が抱える問題に通ずる。職域接種では、大企業(おそらく多くの人は自宅勤務ができるひとたち)など安定した立場にある人たちから先に接種が行われた。さらに一部の大学では健康な大学生に接種が先行したという。

諸外国の職業別接種は、社会のインフラ維持のためロックダウン下でも労働する必要があり、感染の危険にさらされている人たち(公共交通機関の従業員など)に対して検討・実施されてきた。これと対比すると、日本の職域接種の歪みは明瞭である。

ただし、英国のワクチン接種においては、職業別接種で行われたのは、診療に従事している第一線の医療従事者と介護従事者のみである。これはもともとは第一義的には施設におけるクラスターの予防という目的であった(もっとも、デルタ株の出現で、ワクチン接種者でも感染して流行を広める例が増えており、この目的は一部崩れていることに注意すべきである)。第二には、医療従事者・介護従事者はコロナ感染者に接する可能性が高いことから彼らを社会的なコロナ弱者として防御する目的もある。

しかしながら、日本では医療従事者の優先接種が行われた一方で、介護従事者の接種はいまなお遅れている。

さらに、国から自治体へのワクチン配布が自治体間で不平等であった。東京の港区では、夏休みに子供専用のワクチン接種会場を設けた一方で、札幌などの自治体では8月頭の時点でも65歳以上の高齢者でさえ2回接種は5割にすぎなかった。

そもそも多くの地域ではコロナ感染で重症化の危険がそれなりに高い40代、50代の接種は著しく遅れている。

このように、ワクチン接種計画の目的が何であるかが日本社会で理解を共有されないまま、泥縄式に進めてしまったのが現時点までの日本のワクチン接種であったといえよう。総じて言えば、日本のワクチン配布は、社会における犠牲者の最小化を目指すところからは程遠くなっている。