ヘイトスピーチ対策法が施行されてから5年がたった。出身国や人種、民族を理由とした差別的言動をなくすため、国や自治体に対応を求める内容だ。

 だが、ヘイトスピーチはなくなっていない。出自という本人にはどうにもならない点を捉え、特定の人々の尊厳を傷つける行為は許されない。根絶に向けて、さらに努力する必要がある。

 対策法が制定され、街頭宣伝やデモは減っている。裁判所による禁止決定が増え、被害者への賠償が高額になっている。

 自治体による条例の制定も進んだ。激しい街宣やデモが繰り返された川崎市では、罰則付きで禁止された。

 しかし、インターネット上の対策は進んでいない。自治体や法務局がネット事業者に差別的な書き込みの削除を求めているが、追いついていない。

 対策法はできたものの、国の取り組みは不十分である。

 まず、実態を調査しなければならない。施行後は実施されておらず、現状の把握が欠かせない。その上で、差別解消に向けた計画を策定すべきだ。

 差別的言動を禁止する規定も必要だ。違法行為として示されていないため、ネット上の投稿が放置される状況につながっている。

 ヘイトスピーチへの罰則や、人権救済機関の創設を求める声もある。加害者の責任を追及する際、現状では被害者の負担が大きい。表現の自由との兼ね合いを考慮しながら検討していくべきだろう。

 周囲の毅然(きぜん)とした対応も重要になる。

 化粧品会社ディーエイチシーのホームページに、会長名で在日コリアンに差別的な文章が繰り返し掲載された。複数の自治体が協力関係を解消し、取引先企業が問題視すると、削除された。

 ヘイトスピーチを生む土壌には、外国人を社会の一員として認めないという根強い偏見がある。

 外国人との共生や交流を進める施設への脅迫事件が起きている。選挙運動で外国人の排斥を主張している候補者もいる。

 日本で暮らす外国人の歴史や文化への理解を深め、ヘイトスピーチを許さない社会にしていかなければならない。

https://mainichi.jp/articles/20210629/ddm/005/070/099000c