マルセは1933年、大阪市生野区で在日韓国・朝鮮人の2世として生まれた。「パントマイムの神様」と呼ばれるフランスのマルセル・マルソーに影響を受け、パントマイムや動物の形態模写でファンに支持された。サルの形態模写は、「似過ぎていて笑えない」と言われたほどだ。

 作家の色川武大からマルセについて聞いた永六輔は舞台を見て、「感激、ただ感激」とはがきに書いて送ってきた。落語家の立川談志は「タモリやたけしを見るのは文明、マルセ太郎を見るのは文化」と紹介したという。

 「イカイノ物語」は劇作家でもあったマルセ最後の作品で、初演は99年。在日韓国・朝鮮人が多い街・猪飼野を舞台に、チェサ(祭祀(さいし))と呼ばれる法事の日に繰り広げられる家族劇だ。

 マルセと付き合いが長かった演出家の永井寛孝さんは、彼の精神は「弱者、少数派の視点で世の中を見る」ことにあったという。プロ野球の好きな球団について、永井さんが「巨人ファンです」と言うと、マルセは「演劇をやる者がジャイアンツファンではダメだ」と理不尽な批判をしたという。

 米国の黒人やアジア系への差別、日本での在日韓国・朝鮮人に対するヘイトスピーチがなくならない中、永井さんは「異民族に対する差別が、世界中で顕在化しているように思います。この芝居を見て、笑いながらマルセさんの考えに触れてもらえれば」と語る。

https://news.yahoo.co.jp/articles/7969d026aa8968e94357479a83e2d51e89989438