反対派増加の理由は「現状維持バイアス」

 それでも、今夏までは賛成派が反対派を大きく上回っていたとみられる中、10月に入ってから急速に反対派が増えている理由は何でしょうか。その一つに、「現状維持バイアス」が挙げられます。

 「現状維持バイアス」とは行動心理学におけるプロスペクト理論に基づいたバイアスの一つで、未知なるものや未経験なものに対して、それを受容することに対する心理的な抵抗が現状維持を呼び起こし変化しないことに固執するというものです。プロスペクト理論では、得られる利益と失う損失が実際には等価であっても、損失の方を大きく感じるので損失回避に走る傾向があることが分かっています。また、その時点で保有しているものを手放すことに抵抗を感じる「保有効果」も、プロスペクト理論で説明されているものです。

 今回の住民投票においては、大阪市を廃止して特別区を設置することにより、大阪市民にとっては様々なメリットやデメリットがあるとされています。政策的なメリット・デメリットは政策論争として行われていますが、その議論についていけていない人たち、理解が進んでいない人たちにとっては、政策の中身ではなく、「現状維持バイアス」による投票行動が行われる可能性が高いという点に注目する必要があります。仮に賛成多数で可決された場合、「大阪市が廃止」されることによって大阪市民は例外なく住所表記が変わること、それによって企業や個人にとっては少なからず時間的または費用的コストがかかるという点については、明らかなことだと思います。また、長年使い続けてきた「大阪市」という表記に対して愛着を持つ人やノスタルジーを覚える人が多いこともまた事実でしょう。こういった「現状維持バイアス」や「保有効果」は、政策理解の進んでいない人ほどかかりやすく、住民投票への関心は高いものの理解が進んでいない人が「賛成か反対かどちらかといえば」と聴かれれば、これらの理由によって「反対」と答える可能性が高まるという理屈です。

 2015年の住民投票でもこういった効果が見られたことから、おおさか維新の会は制度に対する理解を深めるための周知徹底や制度設計の住民理解を強力に推し進めてきました。こういったバイアスに対抗する唯一の手段は「主権者教育」「政策理解浸透」であり、都構想に対する知識を持つ人はバイアスにかかりにくくなることが分かっています。一方、毎日新聞が報じた「試算」問題をはじめ焦点となる部分で様々な情報ソースが出回り、情報の信憑性に混乱がかかっているのも事実です。こういった事象は現状維持バイアスを惹起するのには十分でしょう。

終盤の情勢をどう見るか

 前掲の情勢調査などから考えれば、わずかに賛成派がリードしているようにも見えますが、最終盤となる今週は、大阪市による「4分割コスト218億円試算」の発表と撤回という急展開があり、これを材料に賛成派・反対派ともに過激な主張も目立つようになってきました。これらの展開や最終盤における各陣営運動がどの程度投票日までに影響するかによっては、「反対」の猛追による僅差での決着はもとより、「反対」が「賛成」を上回る可能性もまだ十分にあるでしょう。

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https://news.yahoo.co.jp/byline/oohamazakitakuma/20201031-00205626/