「キューハチでないと駄目」
そんな隠れたニーズに応え続ける専門業者の一つが、「PC-98のミシマ」(静岡県伊豆の国市)だ。約1000台をストックして整備・販売するほか、修理や買い替えの相談にも応じている。代表の井口智晴さん(38)が
15年ほど前、すでに他店でPC-98の扱いが大きく減っていたのに気づき、古いマシンに特化した事業を思い立ったという。
ミシマでは、1日当たり数件ほどの販売・相談がコンスタントにある。壊れたマシンを抱え「生産ラインが止まった」と飛び込んでくる新規の客は後を絶たない。バブル経済期に設備投資された工場では、
設計時点でPC-98をシステムに組み込むことが多く、設備を丸ごと入れ替えない限りPC-98を使い続けざるを得ない。長年ノートラブルだったシステムが突然動かなくなり、「分かる人間がもう社内にいない」と、
お手上げ状態で相談してくる現場責任者も増えているという。
工場以外でも、社内の経理システムで使い続ける経営者や、楽曲制作の機器として愛用し続けるミュージシャンなど、「キューハチでないと駄目」とこだわる得意客が少なくない。井口さんは「仕方なく
使い続けるというよりも、『このパソコンでないと良い仕事ができない』と、愛着を抱く人が意外と多い」と印象を語る。
井口さんによると、今よりも高価だった当時のパソコンは本体ケースや基板が頑丈で、配線や部品の組み付けも丁寧だったため耐久性に優れ、消耗部品の交換といったメンテナンスを続ければ
比較的長持ちするという。ただ、内蔵型ハードディスクドライブや拡張ボードなど、PC-98専用の機器や補修部品の流通量はどんどん減っていて、在庫の確保が難しくなっている。
そのためミシマでは近年、最新のウィンドウズPC向け機器を加工・流用した代替品の開発に力を入れる。井口さんは「工場の担当者にはパソコンに不慣れな若い人も多い。現代ならではのニーズに
沿った提案をしていきたい」と話している。(北林慎也)
https://www.asahi.com/articles/ASN7F5K3SN7DUEHF118.html