「煮干し」に混じった「フグ」を食べても大丈夫か

 煮干しにフグが混じった画像がネット上にアップされ、食べても大丈夫かと議論になっている。フグのサイズと食べる量にもよるが、結論からいえば食べないほうが無難だ。

強力な致死性の神経毒

 フグの旬は寒い時期とされているが、てっちり、てっさ、唐揚げ、ひれ酒と美味しいフグは魅力的だ。もちろん、フグには部位によって猛毒があり、フグの調理には都道府県によってそれぞれ定められた免許や資格が必要となる(全国統一の制度ではない)。

 厚生労働省の「安全なフグを提供しましょう」というホームページによると、フグによる食中毒の1年間の事件数は、ここ3年(2016〜2018年)で20件弱ずつ、死者数は3年間に1人もいないが、過去には1〜3人ほどが亡くなっている年もある。事件や死者のほとんどは家庭で発生しており、フグを釣ってきて自分で調理したり近所に配るなどして起きているようだ。

 フグの毒はテトロドトキシン(Tetrodotoxin、TTX)という無味無臭の神経毒で、生物の神経系を麻痺させ、呼吸困難におちいらせる。20種以上のフグにテトロドトキシンが含まれるとされるが(※1)、フグ以外にも魚類ではツムギハゼ、貝類ではボウシュウボラやバイ貝など、タコではヒョウモンダコ、またイモリ、カエル、カニ、ウミウシ、ヒトデ、ヒラムシ、ヒモムシ、バクテリアにも含まれる種類がいる。

 テトロドトキシンは水溶性で熱に対して安定し、煮干しになっても毒性は落ちず、むしろ毒性を増加させるようだ(※2)。今のところ有効な解毒剤はない(※3)。

 テトロドトキシンは肝臓や卵巣などの内臓に含まれるが、種類によっては皮や筋肉にも含まれる。また、その毒性はフグの種類や部位、棲息する海域によっても違い、さらに個体差もあるとされる。

 テトロドトキシンは、フグ自身が作り出すのではない。孵化したばかりのフグの稚魚の毒性は低く、その後に餌としてテトロドトキシンを作り出すバクテリアを摂取し、フグの体内にバクテリアが作り出したテトロドトキシンが蓄積されると考えられている(※4)。

 フグ自身が毒で死なないのは、テトロドトキシンを神経系に作用しにくくさせるタンパク質を作り出す遺伝子があるからだ。また、フグは血液中のテトロドトキシンを不活性化できると考えられている(※5)。

フグが混入する流通品

 まだ小さいフグの固体は、テトロドトキシンを作り出すバクテリアをそう多く食べていないかもしれず、毒性は低い可能性がある。では、フグの稚魚の毒性はどれくらい低いのだろうか。

 母親フグは有毒なテトロドトキシンを持っているのだから、生んだ卵から孵化した稚魚にも同じような毒が含まれていることは容易に想像できる。メスのフグの卵巣には、特に強くテトロドトキシンが含まれているからだ。また、クサフグ、コモンフグ、ヒガンフグなどは精巣にもテトロドトキシンが含まれ、雌雄同体の両性フグの場合、これ以外の種類のフグでも生殖巣は有毒とされる。

(続く