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神奈川県大井町の東名高速で2017年、あおり運転で停車させられた車がトラックに追突され夫婦が死亡した事故で、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)などに問われ、1審で懲役18年とされた石橋和歩被告(27)の控訴審が6日、東京高裁(朝山芳史裁判長)で即日結審した。
弁護側は改めて危険運転致死傷の成立を否定した。12月6日に判決が言い渡される。
事故は17年6月5日夜に発生。静岡市の萩山嘉久さん(当時45歳)、妻友香さん(同39歳)、娘2人が乗る車が被告の車に計4度、著しい接近で妨害され、高速道路上に停止。嘉久さんは暴行を受け、その後に後続のトラックに追突され、夫婦は死亡し、娘らもけがをした。
1審・横浜地裁の裁判員裁判判決(18年12月)は、停止させた行為自体は危険運転とは認めない一方で、事故は妨害運転に密接に関連した車の停止と現場での暴行により誘発されたと認定。妨害運転と事故には因果関係があるとして危険運転致死傷の成立を認めた。
6日の控訴審公判で弁護側は、危険運転致死傷の適用対象が特に危険性の高い「運転行為」に限定されていることを踏まえれば、危険運転致死傷は成立せず、1審判決は誤りと反論。後続のトラックの過失を主張した。
検察側は、石橋被告が危険性を認識しながら妨害運転を行ったため、嘉久さんの車は交通量の多い危険な場所に停止を余儀なくされたとし、被告が果たした役割は大きいと強調した。【田中理知】
◇「あおり運転」のあおり行為そのものは処罰対象にならず
最高刑が懲役20年の危険運転致死傷は2001年に刑法に創設されたが、その後も重大な事故が起きる度に厳罰を求める世論に押される形で法改正が重ねられた。今回の事故を巡っても法改正論議を生む可能性がある。
創設のきっかけは東京都内の東名高速で1999年、乗用車が酒酔い運転の大型トラックに追突され、女児2人が焼死した事故。運転手は業務上過失致死傷罪などで懲役4年が確定したが、刑が軽すぎるとの批判から署名運動も活発化し、立法につながった。
ただし、適用要件が、アルコールや薬物の影響で正常な運転が困難な状態▽制御困難な高速度▽車の直前への進入や著しい接近▽赤信号を殊更に無視――などで人を死傷させた場合に限られ、重大事故でも適用が難しいと指摘されてきた。
栃木県で11年、クレーン車が暴走して児童6人が死亡した事故や、京都府で12年に児童ら10人が死傷した事故では適用が見送られた。
悪質運転への罰則を強化するため、13年に自動車運転処罰法が新設され、危険運転致死傷を刑法から移して適用対象も拡大した。特定の病気の影響で運転に支障が出る場合や、通行禁止道の運転なども処罰可能になった。
しかし、近年全国で社会問題化している「あおり運転」のあおり行為そのものは処罰対象にならない。警察庁は18年、全国の警察に、あらゆる法令を駆使して取り締まるよう通達を出した。あわせて、危険運転致死傷の適用範囲を拡大すべきだとの声もある。