[大弦小弦]命名権を売るということ
社長の言葉を鮮明に覚えている。「母親以外は何でも売る」。
県内大手企業が経営難に陥っていたころ。売れる事業や資産を探しては、どんどんさばいていった
▼今は公共施設に名前を付ける権利、ネーミングライツというものが売れる。
米国流のビジネスは沖縄でも広がり、見渡せば企業名を冠した施設が増えた
▼財政が悪化する国立大にも波及している。
琉球大には「全保連ステーション」が誕生した。何やら家賃保証の契約窓口のようだが、実は大学会館。
これが第1弾で、今後キャンパス内の農場やループ道路、池にも名付け親を募集する
▼性質上、金の切れ目で名前が変わるのは避けられない。
プロ野球楽天の本拠地、宮城球場の命名権者はフルキャスト、日本製紙と変遷してきた。
不祥事のため途中で企業名を外す混乱もあった
▼現在は楽天が命名権者に定着したものの、その時PRしたいサービスによって名前を変えている。ファンが「会社の都合でころころ変わって」と嘆くのを聞いた
▼名前というものは共有される前提で成立している。名付けるだけでなく、呼ぶ行為もセットだ。
だから命名権を売る人は、その名を呼ぶことになる私たちの意識も差し出し、お金に換えている。
資金獲得のメリットは理解できるのだが、いまひとつすっきりしないのはきっとそのせいだ。(阿部岳)
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/489876
阿部 岳(あべ たかし)
沖縄タイムス社編集委員
1974年東京都生まれ。
上智大学外国語学部卒。97年沖縄タイムス社入社、政経部県政担当、社会部基地担当、フリーキャップなどを経て現職。
著書 国家の暴力 現場記者が見た「高江165日」の真実(朝日新聞出版)。
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/70787
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