『上武大学ビジネス情報学部教授
田中秀臣

 八ツ場ダムは、今月1日に来年の運用開始を見据えて、貯水試験を始めたばかりだった。
本来であれば、水をためてダムの安全性を確認する「試験湛水」を進め、3〜4カ月かけて満杯になる予定だったが、
今回の台風の影響で水位が1日で54メートルも上昇し、満水時まで10メートルほどに迫った。

 関係者によれば、今回の台風に関しては、八ツ場ダムに一定の治水上の効果があったという。
八ツ場ダムが利根川流域の氾濫を事実上救ったといってもおおげさではないかもしれない。

 八ツ場ダムといえば、民主党政権下で政治的な理由から建設中止が発表されたことがある。
さらに地域住民も賛成派と反対派に分かれたことで、問題は深刻化した。

 今回の台風被害を契機に、インターネットを中心として、民主党政権時代の「脱ダム」や、スーパー堤防の事業廃止などの記憶が掘り起こされ、
旧民主党出身の国会議員らが批判を浴びている。
 それは率直にいって妥当の評価だろう。

日本経済新聞の1面に掲載された論説記事が話題になった。
 書かれていることは、公共工事の積み増しの抑制と自助努力の要請である。
今の日本では、防災インフラの長期的整備の必要性が高まっていても慎むべきだ、というのは非合理的すぎる。

 例えば、費用便益分析を単純に適用しても、今の日本の長期金利がかなりの低水準で推移していることがポイントとなる。
つまり、国債を発行して、長期の世代にまたがって防災インフラを整備するコストが低い状況にあるのだ。
 むしろ、国土を永久的に保つ必要性からいえば、永久国債を発行しての資金調達もすべきだろう。

長期的な経済停滞を防ぐために「国土強靱省」のような省庁や国土強靭ファンドを新設すれば、
国民の多くは長期の財政支出が続くことを期待して、デフレ停滞に陥るリスクを「恒常的」に予防する。
この恒常的な防災インフラ投資が、金融緩和の継続とともに、日本の経済停滞を回避するための絶好の両輪になるだろう。

以下略
https://ironna.jp/article/13595