王室批判を厳しく禁じ、表現の自由を侵害していると国内外から懸念されてきたタイの不敬罪の摘発を当局が抑制していることが分かった。
理由は、5月に正式に代替わりした国王の「指導」。2014年の軍政発足後、恣意(しい)的と批判されてきた不敬罪の適用をなぜ今、控えるのか。
立件基準があいまいで刑罰が重い上、王室の不可侵性とも結び付いて市民やメディアからタブー視される不敬罪。「異変」の背景を探った。 (バンコク川合秀紀)
「実は、112条はもう使わない方がいいと上から言われているんだ」
昨年半ば。タイのある大学教授は、非公式に助言を求めてくる警察幹部からこう告げられ、驚いた。
不敬罪を定めた刑法112条。「上」とは誰か、教授も分からなかったが「統計データに加え、この警察幹部の証言。112条に大きな変化が起きている」。
教授が言う通り、データでも変化は明らかだ。人権問題を調査するタイの非営利団体「iLaw」によると、不敬罪での逮捕・起訴は12年が1人、
13年は2人だったが、軍政が発足した14年には24人と一気に急増。以降、15年36人、16年16人、17年21人と続いた。
一般市民のほか、政権の座から追われたタクシン元首相派の政治家、反軍政活動家も含まれる。直接的な王室批判だけでなく、
インターネット上で前国王の愛犬をからかったり、国王の経歴に触れた海外メディアの記事を共有したりした人も逮捕された。
軍政側が権力批判を抑え込むため、不敬罪を恣意(しい)的に適用した可能性も指摘される。
しかし、昨年は9月の1人だけ。以降、現在まで摘発は確認されていない。
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「国王の警備を任された男」−。5月26日、変化を裏付ける記事が英字紙バンコク・ポストに載った。
昨年10月にタイ警察が新設した王室警備専門部隊トップに対してのインタビュー記事で、多くは彼の経歴や王室への尊敬の念に関する内容だったが、
記事の終盤、不敬罪に関する驚きの発言が紹介された。
「112条はもろ刃の剣になりうるため、これで告発される人を見たくない」「誤った情報を聞いたり、誤解したりしている人々がいるため、
112条に関した処罰は行われるべきではない」などと「国王が指導された」というのだ。
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