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神戸市中央区のJR元町駅近くの高架下で60年にわたり営業してきた理美容店「友利家(ゆりや)」が今月末で閉店する。店主の西本とらゑさん(96)は、阪神大震災による店の半壊を乗り越え、
「足を運び続けるお客さんのため」に切り盛りしてきたが、自らの体調も考慮して引退を決めた。閉店を前に多くの常連客らが店を訪れ、西本さんとの別れを惜しんでいる。(坂田弘幸)
【表で見る】西本とらゑさんの歩み
西本さんは鳥取県若桜(わかさ)町出身。20代半ばだった昭和23年に鳥取市で理容店を開業した。店舗を5軒まで拡大させたが、27年4月の鳥取大火で自宅と店4軒が全焼。再起を期して兄らが暮らす神戸市に移住し、長田区に店を構えた。
ただ、当時も今も珍しい女性ばかりの理容店。「偏見の目で見られることが多かった」といい、客足は伸び悩んだ。そこで理容師の講習会があると聞けば県外にも出向いてカット技術を磨き、あいさつなどの接客も徹底。次第に人気店へと成長し、神戸の高架下商店街に33年、理容店「ユリヤ」(現・友利家)を開業した。
大半が女性スタッフの店はさらに人気を呼び、最盛期の30年代末〜40年代には神戸、大阪に12店舗を構えた。西本さんは「店の前に若い男性の行列ができ、昼食を食べる時間がないほど忙しかった」と懐かしむ。
経理担当が手形を持ち逃げして多額の負債を抱えるトラブルなどもあって、店舗網は縮小したが、平成7年1月17日の震災が追い打ちをかけた。
店舗は壁の一部が落下し、床が隆起するなど半壊状態。約1週間後、西本さんとスタッフ1人だけで店を再開した。代金は受け取らないボランティア状態。「自衛隊の給水車からペットボトルで水を運び、ガスコンロで湯を沸かして洗髪した」という。
かき集めた約3千万円で店を改修し、約半年後に本格的に営業を再開。避難していたスタッフも常連客も徐々に戻ってきた。開業当時からのスタッフ、道本光子さん(76)は「お客さんに『よく生きていてくれた』と抱きつかれた」と振り返る。
来年1月で震災から24年。改修した店も老朽化が進み、散髪台12台のうち5台が使えなくなった。今年11月20日には、店でハサミを握り続けてきた西本さんが、心不全を発症して一時入院した。
「常連客から『辞めないで』といわれてきたが、もう今しかないと思った」。背筋は今もピンとしたままだが、きっぱりと引退を決断した。
11月下旬、店前に閉店を知らせる紙を張り出して以降、寝耳に水の常連客が次々に店を訪れている。30年近く店に通う神戸市西区の会社員、高岡秀介さん(54)は「アットホームで心地良い場所だった。人生の半分はこの店を利用しているので寂しい」と残念がる。
大みそかの閉店後、娘が暮らす静岡県へ移り住むという西本さん。「多くの出会いに恵まれ、感謝の気持ちでいっぱい。お客さんもスタッフも宝物だった」。感謝の思いを胸に、最後の日まで店に立ち続ける