男子から女子へ−、オーストラリア代表のハンナ・マウンシー(29)が「2度目」の世界選手権切符を
手にした。オーストラリアは5位決定戦でイランに30−24と快勝し、来年11月の世界選手権(熊本)出場権を
獲得した。マウンシーが来年再び熊本のコートに立てば、15年性転換前の13年男子大会に続く
男女での世界選手権出場。周囲の雑音を封じるように「男でも女でも、やるのはハンドボール」と笑顔で
言い切った。
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試合終了の瞬間、マウンシーは両手で顔を覆った。189センチ、99キロ、歓喜の輪の中で頭一つ飛び出す。
それでも次々と仲間とハイタッチし、世界選手権出場を喜んだ。「素晴らしい。苦しかったけれど、
今は最高にハッピー」。高さのあるポストプレーで3得点、守備でも強さを見せた。声は太く、笑い方も豪快。
それでも、時折女性らしい柔らかな表情もみせた。

代表デビューは22歳の12年6月、世界選手権予選ニュージーランド戦だった。ポストプレーヤーとして
13年世界選手権に出場し、16年リオデジャネイロオリンピック(五輪)は予選敗退。男子として戦いながらも
心は女性だった。性同一性障害に悩み「女性として生きたい」と思い続けた。リオ五輪予選後に性転換し、
今度は「女子で世界に」の夢ができた。

今大会直前、女子代表入りした。11月30日のカザフスタン戦で「2度目」の代表デビュー。よほど
うれしかったのだろう。29日の練習では会場に流れる「ダンシング・クイーン」の曲で踊る動画を
自身のツイッターに載せた。1次リーグを3位で終えると「あと2勝して世界選手権に行く」と誓いのツイートもした。

「チームメートは、みんなよくしてくれる。最高の仲間たち」とマウンシー。ただ、身体接触のある競技だけに、
難しい面もある。イラン選手は「人前で男性と肌を合わせられない」と対戦を渋ったというし、
国際ハンドボール連盟(IHF)も「大会後にリポートを出す」としている。本人や周囲も神経質で、
日本戦後は沈黙を貫いていた。

それでも、アリー監督は「彼女は貴重な選手。すごくよかった」、同国協会のボイド会長も「もちろん、
来年の世界選手権も一緒に戦ってもらう」。試合後にはマウンシーがロッカールームの歓喜を動画でツイート。
さらに「女子代表」の一員として溶け込んだ喜びから避けていたミックスゾーンで喜びを口にした。
女子での世界選手権出場という夢の次には、男子で逃した五輪がある。「目の前の大会はすべて勝ちたい。
東京五輪でプレーしたい」と語気を強めた。「男でも、女でも、関係はない。私はハンドボールをするだけ」。
興味本位の扱われ方や言われない偏見、バッシングも増すかもしれない。それでも、そんな苦難を
吹き飛ばすように笑った。【荻島弘一】
https://www.nikkansports.com/sports/news/201812080000830.html