地方大学の女性准教授にノーベル物理学賞、その理由
2018.10.9(火)

(中略)
ジェラ―ル・ムル教授+ドナ・ストリックランド准教授の方法は
「チャープパルス増幅」(1985)と呼ばれるものです。

短時間に集中すると強すぎるビームを時間的に引き延ばすことで、
ピークの山を低くして、絶縁破壊を起こさないレベル=ウルトラマンの手が溶けない限界まで、
レーザーの特長であるポンピング=増幅を繰り返し、十分に=破壊しない限界に到達したら、
一挙にそれを短時間に圧縮することで、ピークが極端に高くなり、
瞬間的な高出力レーザとして、様々な用途に用いられるように工夫するものです。

先ほど、白内障の例を挙げましたが、近眼を矯正するレーシック手術など、
高い出力を持つレーザーが実用化できたのは、この技術によるものです。

では「役に立つからノーベル賞が出た」のでしょうか?
私が考えるに、そういうことではないと思います。

チャープパルス増幅の本質的な点は、原子や分子に照射した際、
原子核から電子が感じる以上の電場を、レーザーという外場の形で、
ミクロの領域に集中する技術を人類が最初に手にしたことにあると思います。

光ピンセット技術は、アトム1つを摘む「レーザー冷却(クーリング)」
を可能とする第1原理を実証しました。
一方、チャープパルス増幅は、原子分子1個の中にある電場の均衡をレーザーが破ることで、
巨大な加速器や化学反応の集合体ではなく、一粒一粒の原子の中に人類がアプローチできる、
新しい方途を与えたことにあると思います。

「なぜ女性科学者がノーベル物理学賞をもらうのに55年もかかったのか」と、
59歳のドナ・ストリックランド准教授が問われ、「男性だ女性だという観点で
ものを言うこと自体がナンセンス」と答えるインタビュー
https://www.bbc.com/japanese/video-45742144)が出ています。

こういう、穏当で良識的な、またまだまだ若い人だからこそ、
3人目の女性ノーベル物理学賞受賞者に彼女が選ばれたわけです。
(長いので後略)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54323