【イマドキの仕事人】交通事故鑑定士 痕跡から声なき声法廷に
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181008-00000008-spnannex-soci
防犯カメラやドライブレコーダーの普及で、交通事故の全容が明らかになるケースが増えている。そんな中にあっても、死亡事故発生現場に足を運び、事故を独自に検証し“真実”を明らかにする「交通事故鑑定士」がいる。不慮の事故で命を落とした被害者の、声なき声を法廷に届ける役割を担っていた。
愛知県東部、住宅地を走る片側1車線の道路で、中島博史(52)は路面に目を光らせ事故の痕跡を探した。
横断歩道を渡っていた40代男性が、30代の男性の運転する乗用車にひかれ死亡した事故の現場。路面にカラーテープを貼り車の進入角度などの目印をつけ、メジャーで測定。「う〜ん、やっぱりこれは違うなぁ」とつぶやいた。
違和感を指摘したのは加害者から事故の状況を聴取し、警察が作成した実況見分調書の中身。そこには(1)歩行者は赤信号を渡っていた(2)運転者は避けようとS字にハンドルを切った(3)40キロの法定速度を守っていた――などと記されていた。
「亡くなった人からの聴取は不可能。当然、運転手が自分の不利な証言をするわけがありません」。
今回のケースでは、歩行者が倒れていたのはセンターラインの上で、しかも倒れていたのは衝突地点から20メートルも先など…さまざまな角度から事故を検証。
導き出したのは「車は時速70キロ以下では走行しておらず、歩行者に真横から突っ込んだ。さらに信号無視したのは運転者の方」。調書とは全く逆の結論となった。
調査は歩行者側遺族の弁護士から依頼を受けたもの。「弁護士が、法廷で自信を持って加害者の非を主張できる。交通鑑定士はいわゆるパラリーガル(弁護士業務の補助)的な要素があります」と話した。
中島の実力を業界に示したのが、2016年1月に長野県で起きた軽井沢スキーバス転落事故だ。乗客乗員41人のうち、若者を中心に15人が死亡した痛ましい事故は記憶に新しい。当初から原因は運転手のスピードオーバーとされてきたが、時速何キロが出ていたのかで専門家の意見は分かれた。
多くは70〜80キロと推測したが、事故2日後に現場に入った中島だけは「約100キロ」。後に県警は時速96キロだったことを発表した。
根拠を尋ねると「道路から転落場所までは5メートルの段差があり、立木にぶつかり横転したのは飛び出し地点から30メートル離れている。そこから計算して…」。
お手上げ状態の文系記者を横目に、ものすごい勢いでノートに数式を書き始めた。その確かな腕を見込まれ、調査を依頼されるのは「なぜか死亡事故ばかり」という。
前職はシステムエンジニア。歩行中の母親が後ろから来た車に追突され、生涯車いすでの生活を強いられた。加害者の言い分だけで調書が作成される実態に憤り、損害賠償を求め提訴。車のスピードや向きなどを学問的な見地で独自分析し裁判官に「調書は計算上おかしい」と迫ったが、証拠として採用されなかった。
悔しさだけが残った。