生き延びる力 愛媛新聞 2018年7月25日(水)
あの西日本豪雨の数日間、高知は全国でも突出する雨量に見舞われていた。
安芸市の山間部に位置する人口40人ほどの畑山集落では、
川が氾濫して道がずたずたに崩壊。水も電気も電話も情報も途絶えた▲
もう集団離村するしかないのか…。限界集落に希望をと、
この地で地鶏「土佐ジロー」を育て、宿を営んできた
宇和島市出身の小松圭子さんは、絶望感に襲われた▲
だが周囲は誰も諦めなかった。振り返れば、この惨状下で
誰一人犠牲者を出していない。鉄砲水を防ぐため、水の流れがせき止められないよう
事前に作業していた。お年寄りは過去の経験から、
いち早く助けを求めて宿に避難。住民が手分けして皆の安否を確認した▲
衛星電話と発電機を頼みに自衛隊ヘリの救助を待った。
保存していた地鶏の肉や川のアユで食事はできる。
水は谷の新たな水源を探した。一人一人の「生き抜く知恵」が「防災力」となった▲
復旧は思いがけず早い。圭子さんの夫靖一さんは、
有事に備えて重機を持っていた。行政と力を合わせ道路を回復させる。
経済的にも苦難は続くが、圭子さんはもう諦めたりしない。
全国から訪れる客に、また豊かな自然の中で育てた土佐ジローを食べてもらいたいと、前を向く▲
荒れ狂った川にはまた多くの魚が姿を現した。自然は時に牙をむく。
それでもひるまず自然を愛し、共に生きる―。
効率化の中で人々が手放した暮らしに、学ぶべき力を見た。
https://www.ehime-np.co.jp/article/news201807250020