『盆には帰る。十一日の夜行に乗るすけ。土産は、えびフライ。油とソースを買っておけ。』

父親が帰ってくれるのはうれしかったが、正直いって土産が少し心もとなかった。
えびフライというのは、まだ見たことも食ったこともない。

えびなら、沼に小えびがたくさんいるし、フライというのも、給食に時たま鯖のフライが出るからわかる。
けれども、両方いっしょにして、えびフライといわれると、急になんだかわからなくなる。
あんな小えびを、どうやってフライにするのだろう。

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揚げたてのえびフライは、口の中に入れると、しゃおっ、というような音を立てた。
かむと、緻密な肉の中で前歯がかすかにきしむような、いい歯ごたえで、この辺りでくるみ味と
いっているえもいわれないうまさが口の中に広がった。

二尾も一度に食ってしまうのは惜しいような気がしたが、明日からは盆で、精進しなければならない。
最初は、自分のだけ先になくならないように、横目で姉を見ながら調子を合わせて食っていたが、
二尾目になると、それも忘れてしまった。

不意に、祖母がむせてせき込んだ。姉が背中をたたいてやると、小皿にえびのしっぽを吐き出した。
「歯がねえのに、しっぽは無理だえなあ、婆っちゃ。えびは、しっぽを残すのせ。」
と、父親が苦笑いして言った。
そんなら、食う前にそう教えてくれればよかった。姉の皿を見ると、やはりしっぽは見当たらなかった。
姉もこちらの皿を見ていた。顔を見合わせて、首をすくめた。
「歯があれば、しっぽもうめえや。」

翌朝、目を覚ましたときも、まだ舌の根にゆうべのうまさが残っていた。
そういえば、祖父や母親は生きているうちに、えびのフライなど食ったことがあったろうか。
祖父のことは知らないが、まだ田畑を作っているころに早死にした母親は、あんなにうまいものは
一度も食わずに死んだのではなかろうか――