田代勇(30)は少年時代にひったくりで捕まったことがあった。バイクで2人乗りして、後部座席の田代が女性のバッグをひったくるというものだ。
田代は家裁で審判を受け、保護観察処分になったが、それ以来、家族から厳しく監視されるようになった。
ところが23歳のとき、警察に強制わいせつ事件の重要参考人として事情聴取を受けるという騒ぎを起こした。父親は烈火のごとく怒ったが、その後、田代が逮捕されることはなかった。田代は「たまたま仕事帰りに現場近くを通り掛かり、服装が似ていたので犯人と勘違いされた」と説明した。
家族はそれを信じた。それどころか、ひったくりの一件から立ち直ろうとしていたのに、また息子を疑ってしまい、両親ともども同居していた兄も恥じた。
「すまなかった。お前もいい大人だ。自分のことは自分で責任を取るように。もうワシらも監視しない」
それを機に田代は比較的自由に行動できるようになった。深夜に出歩こうと何も言われない。これは田代にとって好都合なことだった。なぜなら警察に事情聴取された一件は、運よく警察が立件を諦めた事案にすぎなかったからだ。
田代は深夜になると自転車で徘徊し、好みの女性を見つけると人気のない場所まで尾行し、背後から抱き付いて襲い掛かるという犯行を繰り返すようになった。
そして27歳のとき、ついにそのうちの一件で逮捕された。帰宅途中の女子大生(18)に抱き付き、路上に押し倒してわいせつ行為をしたというものだった。
警察が家宅捜索令状を持って自宅までやってきたので、家族にもすべてを知られてしまった。しかも、今度は動かぬ証拠を突き付けられ、認めざるを得なくなった。
家族は田代が犯行内容を認めていることを知って愕然とした。
「今後は家族全員が本人との関係性を深め、全力で監視します。外出の際は行き先や帰宅時間を必ずチェックし、仕事で遅くなるときも必ず連絡させます。深夜に出掛けるなんて、絶対許可しません」
家族は50万円出して被害者と示談。幸いにも執行猶予付きの有罪判決を言い渡されて釈放されたが、以後、田代は少年時代よりも厳しく家族から監視されるようになった。
それが息苦しくてたまらなくなり、ここから出て行くには結婚でもするしかないと考え、SNSで知り合った女性と交際し、わずか半年後には妊娠が判明。家族も賛成せざるを得なくなり、田代の“黒歴史”は妻と妻の家族にも伏せられたまま、生まれたばかりの長女と3人で暮らすことになった。
となると、またぞろ田代の悪い癖が出てきた。
深夜に帰宅途中、また若い女性を物色するようになったのだ。前回の犯行経験から、防犯カメラだらけの街中で襲うのは得策ではないと考え、狙いを定めた女性宅まで尾行し、女性宅を確認してから部屋の中で襲い掛かるという犯行パターンに切り替えた。そのために、玄関のU字ロックをヒモなどを使って外す技術も身に付けた。
https://wjn.jp/sp/article/detail/9739320/