【ソウル=鈴木壮太郎】
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長は27日の南北首脳会談で、核実験場の5月廃棄を文在寅(ムン・ジェイン)大統領に伝えた。
早ければ5月中にも予定される米朝首脳会談を前に「完全な非核化」をアピールし、対価として米国による体制保証を求めた。
ただ北朝鮮は非核化にたびたび言及し、そのたびに覆してきた経緯がある。
「使えなくなった施設の閉鎖とみる向きもあるようだが、来てみれば分かる。既存の施設よりさらに大きな2つの坑道があり、これは健在だ」
韓国政府高官によると、北東部豊渓里(プンゲリ)の核実験場の廃棄は南北の協議事項にはなく、午前の首脳会談で金正恩氏から持ち出した。
核実験場廃棄は20日の朝鮮労働党の中央委員会総会で決定済みだが、金正恩氏は「5月中」「米韓の専門家・報道機関への公開」を明言した。
核実験を過去6回実施した豊渓里は、爆発の影響で坑道が崩落。すでに使えなくなっているとの指摘もある。そんな見方を熟知する金正恩氏は、
韓国政府高官も「知らなかった」という新たな坑道の存在をあえて公表、廃棄する考えを示した。
ただ核実験場の廃棄は既視感がある。北朝鮮は2007年の6カ国協議で、寧辺(ニョンビョン)の3核施設を無能力化させることで合意。
08年に黒鉛減速炉(原子炉)の冷却塔を爆破し、外国メディアが中継した。
見た目の派手さとは裏腹に、心臓部の原子炉は手つかずに終わった。合意は核廃棄のプロセスの検証方法などを巡って対立が激化し、
北朝鮮は13年に再稼働を宣言した。
北朝鮮は1994年の米朝枠組み合意でも核施設の凍結を約束。2012年も当時のオバマ米政権と核実験と長距離ミサイル開発の凍結で合意したが、
いずれも履行しなかった。現時点では北朝鮮の非核化の意思が本物かどうか見通せない。
「米国と信頼が築かれ、終戦と不可侵が約束されれば、私たちが核を持って困難な暮らしを続ける必要があるだろうか」
北朝鮮が非核化の見返りに米国に求めているのは、休戦状態にある朝鮮戦争を終わらせ、米国との国交を正常化することで体制の保証を
勝ち取ることだ。金正恩氏は「話をすれば私が南側や太平洋上で核を使ったり、米国を狙ったりする人間ではないということがわかるだろう」とも語った。
ただ南北首脳会談では「完全な非核化」を共通の目標にすることで合意したものの時期や手順などの具体策は盛りこまれず、韓国政府からも
やりとりは明かされなかった。米朝首脳会談で、完全で検証可能かつ不可逆的な核放棄(CVID)を掲げる米国と折り合えるかが焦点となる。
「『平和の家』の控室に時計が2つかかっていた。ひとつはソウル時間、もうひとつは平壌時間。これを見て胸が痛んだ」
金正恩氏は30分の時差がある南北の標準時間の統一を提案、北朝鮮が韓国の時間に合わせると明言した。南北にはもともと時差はなく
日本と同じだったが、北朝鮮は「日帝時代の残滓(ざんし)」だとして、2015年から30分遅らせた「平壌時間」を採用していた。
時差を無くすことで南北融和を強調した格好だが、トップの一言ですべてが動く独裁体制を裏付けたともいえる。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO29997000Z20C18A4FF8000/