「どう、できそう?」
「やっぱりできません…」
「それは残念だな…」
「それで今日の体験入店のお給料の方はどうなりますか?」
「いや…、オレはあくまで講習を頼まれただけの立場だから…」
その途端、男の歯切れが悪くなった。店の担当者の名前さえ答えられないことに不信感を抱き、「それなら私の名前を知っていますか?」と聞くと、まるで違う名前を答えたため、ビックリ仰天した。
「それ、私じゃないです」
「何だって? それじゃ、オレが勘違いしたのか。オレが迎えに行かなかったから、キャンセルになっちゃったかも…」
美雪さんも慌てて店に電話した。
「すみません、今日、面接予定だった者ですけど、面接官を間違えてしまって…」
「えっ、それはどういうことですか?」
「どういうことか自分でもよく分からないんです」
「今、どこにいます?」
「ホテルです」
「ホテル?」
「別の店の面接官の人と一緒なんですけど」
その会話を聞きながら男は「また駅まで送っていくから、とりあえずシャワーを浴びてきて」と促した。
美雪さんは駅まで戻る車の中でパニックになり、泣き出してしまった。
「すまなかった。オレも同業者だから、悪いようにはしないから。オレからもちゃんと言っておくよ」
さらに1万円札を差し出してきて「これでなかったことにしてほしい」と頼んできた。それを美雪さんに持たせて写真を撮ろうとしたので、ようやく美雪さんは男の魂胆に気付いた。
そこへ、店の関係者から電話がかかってきた。
「もう駅で待っています。車種は何ですか? どんな服装をしていますか?」
「白いワンピースにジーンズです」
美雪さんが車を降りた途端、2人の男性が駆け寄ってきた。その姿を見て男は車を急発進させて逃げてしまった。だが、ナンバーを控えられていたので、逮捕は秒読みだった。
秋本は美雪さんに対するわいせつ目的誘拐と準強姦の疑いで逮捕された。秋本は4年前にも援助交際で会った女子高生をタダマンした容疑で逮捕されたことがあった。その際には、自宅から未成年を含む60人以上の女性とわいせつな行為をしたビデオが見つかった。
この年までこうしたことばかり繰り返してきた人間は、出所してもまた手口を巧妙化して同じことを繰り返すのが関の山だろう。
(文中の登場人物はすべて仮名です)
http://wjn.jp/sp/article/detail/8220326/