ホームレス。いわゆる路上生活をしている人たちを指す言葉だ。貧富の格差が広がる先進国において、最貧困層と言ってもいい。
厚生労働省の調査によると日本のホームレスは年々減少傾向にあるものの、
2017年1月時点で約5500人(うち女性は約200人)もいる。そんなホームレスたちがなぜ路上生活をするようになったのか。
「兄ちゃん、タバコくれへんか?」と暗闇から低い声が聞こえてきた。
見ると、段ボールの上にあぐらをかいた男性がいた。僕はポケットからHOPEを取り出すと、箱ごと彼に渡した。
彼は「ありがとう! ありがとう!」と嬉しそうに礼を言うと「わしは松村や。松っちゃんと呼んでくれてええよ」と笑顔で簡単に自己紹介した。
そして自前の100円ライターでタバコの先に火をつけた。
小さな炎に照らされた彼の顔を見ると50代後半、
そして左目の周りが赤く腫れて大きなアザができていた。
「ん、これか? 昨日シノギにあったんや。飯場(はんば)で稼いできた6万円を全部持っていかれた。今はスッカラカンや」
としょげた顔で語る。飯場とは、宿と飯がついた労働現場、シノギとは、ホームレスから物を盗む泥棒の俗称だ。場所によってはマグロとも呼ばれる。
西成のシノギは荒っぽいと以前からよく聞く。彼らは被害者が追いかけて来られなくするため暴力を振るうのだが、中にはナタでアキレス腱をバンッと切って行くシノギもいると聞いた。
■「それでも西成が好きなんよ。人情がある街」
松っちゃんがおカネをとられたのは、今回が初めてではない。飯場からおカネを持って西成に帰ってくるたび、酔っ払って寝ている時を狙ってシノギに襲われカネを奪われるという。
そして3カ月後、そろそろ春という季節に松っちゃんとたまたま再会した。
そして近づくと、松っちゃんのアゴが痛々しく割れているのが見えた。
「またシノギ屋にやられたんよ。今度はアゴを蹴られた。下の歯3本が折れたわ。でも骨は折れとらん。元々格闘技やってたから骨は強いんよ」
とニヤリと笑う。格闘技をしててもアゴの骨は鍛えられないだろう。たまたま折れなかっただけだ。
■「がんになったんよ」
そしてその年の夏。三たび松っちゃんと出会った。
「そうなんよ。わかる? がんになったんよ」
衝撃的なことをあんまりにもさらりと言うから、言葉を失ってしまった。
「嘘じゃないんよ。ほんまにがんなんよ。多分もう先はあんまり長くないわ」
松っちゃんはなんだか妙に明るく、嬉しいできごとのように話した。
「かわいそうやと思うならお酒おごって」
と笑顔で言う。
松っちゃんはその日も飲んで飲んで泥酔して、公園で横になってお尻を半分見せながら眠ってしまった。
そして松っちゃんが目覚める前に別れた。それ以来会っていない。https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180108-00203673-toyo-soci&p=5