続き

判決は、検察の求刑通りの懲役20年となった。その判決を聞く間、犠牲者の母親である江秋蓮さんは、被告をじっと凝視しながら、拳を握りしめていた。
途中で何度も深いため息をつき、目を潤ませ、震えているようにも見えた。裁判員裁判であり、裁判官が陳被告の「殺意はなかった」という主張を覆す判決文を読み上げていくなか、時折天井を見上げた。

報道の違いに温度差
この事件が、中国で全国ニュースに「昇格」したのは、被害者の母親の江秋蓮さんの力に負うところが大きい。母子家庭でたった1人の娘を失った彼女は、
中国版ツイッター『微博』で陳被告の死刑を求める署名活動を展開し、400万人を超えるネット署名を集めた。多額の寄付も集まり、江秋蓮さんは一気に有名人となった。

江秋蓮さんがその主張で掲げたのは、陳被告の「死刑」であった。日本では、殺した人数が1人では、通常、死刑判決は出ない。だが、彼女はこう訴えた。

「娘は私の人生のすべてだった。日本の量刑基準では死刑は出ないという話だが、殺した人の数で量刑が決まるのは、おかしいのではないでしょうか。
陳は全く罪がない娘を、残忍な方法で殺したのです。それで極刑にならない方がおかしい。私も陳に殺されたに等しい。一家皆殺しのようなものです」

このアピールは、中国社会の広い同情を集めた。そして、「日本ではなぜ死刑にならないのか」「犯人を中国で裁けないのか」など、多くの議論を呼び、殺人事件は一躍国民的ニュースになったのである。
一方的な死刑賛成論だけではなく、日本の法制度との違いを指摘する冷静な意見もあった。江秋蓮さんが、江歌さんの友人の劉さんに対して、「娘を見殺しにした」と厳しく批判したことにも、賛否両方の意見が激しく交わされた。