日中「死刑観」の違いを浮き彫りにした「中国人留学生殺害事件」の判決--野嶋剛
日本ではほとんど知られない事件が、中国全土の関心を圧倒的に集めるトップニュースに化けた。

中国人の男が、中国人留学生の女性を殺害する事件が、2016年11月に東京で起きた。すぐに犯人の男は警察に逮捕された。単純な殺人事件として、注目されないまま終わってもおかしくない話だ。
しかし、それが中国全土の関心を圧倒的に集めるトップニュースに化けた。一方、日本ではほとんど事件のことは知られていない。この日中間の巨大な温度差には、「死刑」に対する日中の司法制度や価値観、考え方の大きな違いが横たわっている。

「東日本大震災以来」
殺されたのは、山東省出身の江歌さん(当時24)という若い留学生の女性だった。犯人は事件当時江さんと同居していた女性・劉鑫さんの恋人だった陳世峰被告(26)。
都内の大学院で学んでいた留学生だ。陳被告は、劉さんの自宅前で待ち伏せし、復縁を迫ろうとした。劉さんをかばって立ちはだかった江歌さんの首や胸を、陳被告は何度もナイフでメッタ刺しにして殺した。

12月20日、東京地裁で判決公判が行われた。東京駐在、あるいは、中国から駆け付けた中国メディアのレポーターが地裁前に陣取って、判決前から中継を繰り返す熱の入れようだった。
当日、法廷前にいた中国の記者は、「これだけ中国の記者が日本にやってきたのは、東日本大震災以来かもしれない」と語った。確かにそうかもしれない。

35席分の一般傍聴券を求めて、294人の人々が列を作った。私は抽選に外れてしまったが、知人の中国メディアの記者から、運良く当選券を分けてもらった。
並んだ人の9割以上は中国人。恐らく過去にはない珍しい状況に、地裁側も戸惑っている様子で、地裁職員を多数動員した法廷内外では、厳戒態勢が敷かれていた。

続く
http://m.huffingtonpost.jp/foresight/story_a_23314842/