東京五輪の選手村で働くボランティア薬剤師の募集条件がひどい――。9月中旬、こんなブログが反響を呼んだ。
「ブラックすぎる」などとネット上で批判があがった条件は▽日本アンチ・ドーピング機構(JADA)が専門知識を有すると認めたスポーツファーマシストの資格取得者▽10日間程度勤務可能▽英語で服薬指導ができる▽報酬・旅費支給なし▽宿泊施設の手配はなし、などだ。
これらの条件は、大会組織委員会が日本薬剤師会を通じて行った調査で示されたもので正式決定ではない。薬剤師会の担当者は「人数を把握するためのもので、変更の可能性はある」と話す。とは言え、冒頭のブログを書いたスポーツファーマシストの奥谷元哉さん(37)は「たとえ調査でも、この条件なら日当を出した方がよいのでは」と指摘する。
ログイン前の続き2012年のロンドン大会や昨年のリオデジャネイロ大会でも医療専門職は無償だった。関係者によると、「(目標)人数のめどは立ちそう」といい、ボランティアだからやりたい人がやればいいという考えはあるだろう。
ただ、薬剤師である私の母(56)は、東京五輪でボランティアをしたいと1年かけてスポーツファーマシストの資格をとった。その母ですら、「10日間も仕事を休めるかな」と不安を感じている。現在約7900人いるスポーツファーマシストの中で、負担を感じずに参加できる人がどれほどいるだろうか。
各地のマラソン大会などでボランティア総括を経験した浦久保和哉さん(44)=大阪体育大=は「専門職の無償活動は、その職業や活動のPRや社会貢献が目的であれば考えられなくはない。意義や位置付けを明確にせず、趣旨が不明なまま『ボランティア』で人材を活用しようとするのは問題ではないか」と話す。
五輪などの大規模なイベントでは「とにかく人数を確保したい」という主催側の思惑が強くなりがちだ。今回反発があったのも、条件のみがネット上に流出し、コストや人員削減のためにボランティアを使っていると見られてしまったことが要因だろう。
東京五輪を機にスポーツファーマシストの地位向上を願う人たちは多い。ボランティア募集の条件やビジョン作りを進めている大会組織委には、そんな人々の思いをくみ取ったものを考えてほしい。(照屋健)
http://digital.asahi.com/articles/ASKCW4K16KCWUTQP014.html?rm=341