そのうち俺は「漢字の名前も教えてくれ」って頼むようになった。そしたらおじいさんが、拾った辞書で「野雅夫」って教えてくれた。


「」という字、古い辞書だったから旧字体の「はしご」の「」を使ってる。

だから普通の「高」の字を書かれると、俺ではないと思う。


「」の字にはおじいさんの歴史と俺の命が込められているから、絶対的にこだわっている。だからはんこも、作った戸籍もみんなこの「」。


一番ショックだったのは、そのおじさんが周りから「あいつ朝鮮人だ。朝鮮人だ」とか言われて差別を受けてきたこと。

当時は全く意味がわからなくて、「朝鮮」という名前の人なのかなぐらいに思っていた。


だけど、この世の中に神様がいるとしたら、このおじいさんこそ俺の神様。俺に字を教えてくれたわけだから。黙々と仕事する後ろ姿が輝いて見えた。