盗みの疑いをかけられ半殺し… 今も戦争トラウマに苦しむ人たち
沖縄戦による住民のPTSD(心的外傷後ストレス障害=トラウマ)発症を、体験者の証言や取材、調査研究から浮かび上がらせる本「戦争とこころ」(沖縄タイムス社)が刊行された。
医師や研究者がつくる沖縄戦・精神保健研究会の編著。元県立看護大学教授の當山冨士子会長は「沖縄戦から72年、今も戦争トラウマに苦しむ人が実在する。
戦争の影響に終わりはないということを、戦後世代にこそ知ってほしい」と語る。
研究会は6年前、當山さんと、精神科の蟻塚亮二医師、沖縄女性史家の宮城晴美さん、フリージャーナリストの山城紀子さんの4氏によって設立された。
きっかけは約25年前、沖縄戦の激戦地である本島南部の住民を対象に、當山さんが実施した精神保健調査。
当時すでに戦後数十年がたっていたにもかかわらず、戦争の後遺症に苦しむ住民の姿があった。
「戦時中、日本兵に盗みの疑いをかけられ半殺しの目に遭った男性は、1日数回けいれん発作を発症していた。
戦後は家に閉じこもりがちで、生活は困窮していた」と當山さん。
兵士の戦争トラウマの研究が進む一方で、住民のトラウマ調査がほとんどなされてこなかったことを実感した。
研究調査を基に、会が年1回開催する市民公開講座への反響は、予想以上に大きかった。
お年寄りからは「長年の体調不良はトラウマによるものかもしれない」との訴えが寄せられた。
當山さんは「心の傷の原因を知った人の中には、長年の不安が解消された人もいた」と住民の戦争トラウマを知る重要性を語った。
研究会メンバーの一人、臨床心理士の原國ゆりこさんも診察の中で度々、沖縄戦の影響を見聞きした。
「戦争トラウマに悩む祖父母の姿が父母世代に影響し、さらに孫世代の生きづらさにつながっているケースもある」と指摘。
戦争の世代間連鎖が、沖縄社会での子どもの貧困や家庭内暴力の発生件数の多さ、アルコール依存症などに影響している可能性を示唆した。
當山さんは「住民や社会への暗い影響を考えたとき、戦争はまだ終わっていない。体験者が少なくなっていく今こそ、若い世代に読んでほしい」と望んだ。
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/167909
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