2月13日の殺害事件当日、クアラルンプール国際空港の出発フロアで突然、顔に液体を塗られた北朝鮮の金正男(キム・ジョンナム)が最初に助けを求めたのは、同じ階にある案内カウンターだった。
職員は異様な雰囲気を察知し、空港詰めの警察官に通報した。
2日の初公判では、この時対応した職員のジュリアナ・イドリス(37)と警察官、ズルカルナイン(31)が直後の様子を次のように証言している。
「見知らぬ女2人に顔に何かを塗られた」。正男は案内カウンターでイドリスにこう訴えた。
駆けつけたズルカルナインは正男の目が「少し赤い」のが気になった。
「顔はぬれている」ように見えたが、これが塗られた毒物なのか汗なのかはよく分からない。
被害届を出すか診療所に行くかと尋ねると、正男は「先に診療所に行きたい」と答えた。
2人は2階下のクリニックまで一緒に歩いた。3〜5分かかった。
正男の足取りは重く、途中、「ゆっくり歩いてください。目がかすんで見えないんです」と英語で訴えた。
ズルカルナインは正男の身元を確認する際、事務的なミスを犯したと法廷で認めた。
正男のパスポートの名義は「キム・チョル」という外交官。
国名は英語で「朝鮮民主主義人民共和国」と書かれていたが、「Korea」を韓国と勘違いして報告書に記載してしまったという。
法廷ではこのミスがどう処理されたか、やりとりはなかった。
ロイター通信は3月、マレーシア政府は事件直後、正男に関する書類を北朝鮮より先に、誤って韓国政府に照会。
これを「金正男」と見抜いた韓国政府から情報が漏れ、事件は世界中に知れ渡ったと報じた。ズルカルナインの証言は、この報道を裏付けることになった。
誤記がなければ、マレーシア政府は「キム・チョル」が金正男だとは気付かず、北朝鮮が人知れず遺体を引き取っていたかもしれない。【クアラルンプールで平野光芳】(敬称・呼称略)
(毎日新聞)
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